オタク姫 ~100年の恋~

菱沼あゆ

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王子の時給は840円のようです

あの方は逆変装中です

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「あっ、私、これ、好きなんです。
 古いゲームだけど、まだ置いてあるんですね」
と言うと、

「私もそれやったことある。
 全然進まないクソゲーじゃん」
と彼女は言う。

「私、クソゲー好きなんです」
と朝霞が微笑んで言うと、

「ごめん。
 その顔でクソゲーとか言わないで……」

 イメージ崩れるから、という彼女に、

 いや、あなた、私がお嫌いなんですよね?
と朝霞は思う。

 気がつけば、レジから十文字がこちらを窺っている。
 揉めているので、なにごとか、と思ったようだった。

 はっ。
 そういえば、この人、あんた、いつもイケメンに囲まれて、とか言ってたなっ、と思い、

「も、もしや、あなた、先輩がお好きなんですか?」
と十文字を手で示し、慌てて訊いてみた。

 それでたいして関わりもない自分を目のかたきにしているのではないかと思ったのだ。

 だが、彼女は、先輩? と振り返ったあとで、レジにいる十文字を確認して、

「十文字先輩っ?
 なんでよ。
 あんな厳しそうな人、いくらイケメンでも嫌よっ」
と言い出した。

 ええーっ。
 でも、オカリナをぴぱーと吹いて慰めてくれる良い人なんですが。

 いや、あれは王子の方か、と思ったが、まあ自分の中の十文字先輩がああいうイメージなんだろうな、と朝霞は思う。

「厳しいのはお嫌いなんですか?
 では、チャラいイケメンで、私の周りにいる人ですね。

 ってことは、佐野村っ?」
と言うと、

「……チャラいイケメンで出さないであげて、名前」
と彼女は言う。

 どうやら、当たりのようだった。

「ああ、なんだ。
 佐野村がお好きなら、敵は私じゃありませんよー」
とつい、言ってしまい、

「じゃあ、誰よ、敵」
と突っ込んで訊かれる。

「……言えません」

「言いなさいよー。
 って、まあ、佐野村好きな子、何人か知ってるから、別にいいけど」
と言われ、

「ええっ?
 そうなんですか?

 なんで、佐野村、そんなにモテるんですか?

 この王子よりもですかっ?」
と思わず言ってしまう。

「……王子?」
とレジの方を振り返った彼女は、

「なあんだ」
と言う。

「あんた、好きなの、十文字先輩か」

「やめてください。
 先輩、そこにいらっしゃいますし。

 それに、私は別に先輩を好きなわけではありません」
と否定したあとで、小声になって、朝霞は言う。

「……ところで、今、うっかり言っちゃいましたけど。
 十文字先輩があそこに逆変装でいるの、ご内密に」

 普通、眼鏡かける方が変装だと思うのだが、かけてないのが変装という不思議な人だが――。

 だが、それを聞いた彼女は、ああ、とレジを見、
「大丈夫よ。
 別にいちいち、そんなことチクらないわ。
 隠れてバイトしてるって人、結構いるし。

 それにこの店、学校から遠いとは言っても、来る人いるでしょ?
 何人かは知ってると思うけど。

 誰も学校に報告してないし、噂にもなってないじゃない」
と言ってくれた。

「そうですか。
 よかったです」
と朝霞が笑うと、通りに面した方を向いていた彼女が、

「あんたのイケメンのおにいちゃんが来たわよ。
 中覗いてキョロキョロしてるから、あんた探しに来たんじゃない?」
と教えてくれる。

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