オタク姫 ~100年の恋~

菱沼あゆ

文字の大きさ
26 / 65
王子の時給は840円のようです

昔、姫と呼ばれていた理由

しおりを挟む


 月曜の朝、朝霞が廊下を歩いていると、みんなが振り返り、そのうちの数人が挨拶してくる。

「おはようございます、朝霞様」
と恥ずかしそうに、同じ学年の女の子も言ってきた。

「おはよう」
と朝霞が微笑み返すと、きゃー、と言って、友だちと赤くなって走り去ってしまった。

 ……何度も言うようだが、私はこのようなポジションにあるべき人間ではない。

 兄は慣れているようだが、私は違う。

 だが、ほんとうに、人の期待を込めたキラキラした眼差しを裏切るのは苦手だ。

 朝霞さんは、漫画やゲームなんて見ませんよね~とか言われると、人の期待を裏切るのも悪いかと思って、なにも言えなくなってしまうし。

 そうだ。
 そもそも、小学校のときだって、学校上がってすぐに、

「朝霞ちゃんって、勉強できそう」
と何気なく言われて。

 それで、期待を裏切るのも悪いかと思って、勉強して、常にそこそこの成績を保っていたんだった。

 うう、人の期待でがんじがらめになっているっ!
と朝霞は苦悩していた。

 今回だって、ただ、ヤマが当たって、新入生代表になったってだけで、悪目立ちしちゃってこんなことにっ。

「私、ただ成績がよかっただけなのにっ!」
と小声で苦悩していると、後ろから、

「どつくよ、あさかー」
と声がした。

 振り向くと、仁美が立っていた。

 笑顔で、
「中間テストも近づいてきたこの時期に、なにぶん殴りたいようなことで苦悩してんの」
と脅される。

 ……すみません。

「別に悩むことないじゃない」
と横を歩きながら、仁美は言う。

「もう二ヶ月になるのに、まだバレないなんて。
 きっと、そのままのあんたで、みんなの思う朝霞姫の像とそんなに離れてないってことなのよ」

 いや、そんなはずはないのだが。

 慰めてくれる仁美に感謝していると、彼女は言ってきた。

「だいたい、あんた、昔から姫って言われてたじゃん」

「えっ?」

「オタク姫って」

 ……姫と呼ばれていたのは、トロくて、なにもできないからではなかったのですか。

 なんか違う、と朝霞は顔を覆った。

 なんか違う。
 みんなの期待と、と思って。

「小学校のとき、あんた日記で熱く語ってたじゃん。

 見たいアニメが海を越えた隣の県でしかやってないとかで。

 海沿いまでお父さんに車で乗せてってもらって、車のテレビでむりやり電波拾って見たって。

 あれで、オタク姫と陰で囁かれてたんだよね」
 
 ……消えてなくなりたい、と朝霞は更に撃沈した。

 そして、何故、日記で熱く語っていたことをみんなが知っているかと言うと、先生が、帰りの会のときに、みんなの前で、読み上げたからだ。

 仁美が笑い、
「先生が、この情熱はすごいって感心してたねー」
と気持ちよく忘れていた古傷をえぐってくる。

「……殺そう。
 この友を。

 今なら許される気がしてきた」

 ひっ、と仁美は息を呑み、

「誰も許さないよっ。
 っていうか、あんた、今の姫の幻影を振り払いたいんでしょうが。

 あのときみたいに、熱くゲームや漫画について語ってみたら?

 大丈夫。
 みんなドン引くよっ」
と言ってくる。

 慰めてくれているのだろうが、友よ。

 私は普通になりたいので、ドン引かれたいわけではない。

「なんとか中間地点で収まらないものだろうか」
と呟くと、

「いや、無理じゃない?

 なにそれ、県境の海まで走るとか。
 私でもやらないし」
と声がした。

「マキちゃん」
と振り向いた朝霞は言った。

 昨日、ゲームソフト店で出会った女生徒、坂上マキが立っていた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

アリア

桜庭かなめ
恋愛
 10年前、中学生だった氷室智也は遊園地で迷子になっていた朝比奈美来のことを助ける。自分を助けてくれた智也のことが好きになった美来は智也にプロポーズをする。しかし、智也は美来が結婚できる年齢になったらまた考えようと答えた。  それ以来、2人は会っていなかったが、10年経ったある春の日、結婚できる年齢である16歳となった美来が突然現れ、智也は再びプロポーズをされる。そのことをきっかけに智也は週末を中心に美来と一緒の時間を過ごしていく。しかし、会社の1年先輩である月村有紗も智也のことが好きであると告白する。  様々なことが降りかかる中、智也、美来、有紗の三角関係はどうなっていくのか。2度のプロポーズから始まるラブストーリーシリーズ。  ※完結しました!(2020.9.24)

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

処理中です...