オタク姫 ~100年の恋~

菱沼あゆ

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王子の時給は840円のようです

なんだか、こっちが振り回されているっ!

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 お昼休み、朝霞はお弁当を食べる前に、教室を出た。
 先ほどの非礼を詫びようと思ってのことだ。

 いや、私の非礼ではないし、私の方が先輩から、ブリザードな攻撃を受けた気もするのだが。

 そんなことを思いながらも、十文字の教室に行ったが、十文字はいなかった。

 ちょうど戸口にいた彼のクラスメイトが、
「あれ? 十文字まだ戻ってない?
 十文字、選択、美術だから、美術室じゃね?」
と教えてくれる。

「あっ、ありがとうございますっ」
と言って、朝霞は渡り廊下を急ぎ、特別棟の美術室へと向かった。

 

 十文字はまだ美術室にいた。
 最後まで残って、絵を描いていたようだ。

 後片付けをしている。

 先輩、美術かあ。
 絵が得意なのかな。

 まあ、なんでもできそうだけど。

 私は音楽希望だったのに、落とされて、第二希望の美術からも落とされて、いつも半紙に字がおさまらないのに、書道になったんだが……。

「なんの絵ですか?」
と机の上にスケッチブックが置かれていたので、朝霞はひょいと見ながら、話しかけた。

「わあ、素敵な青紫色の

 ……ヨーダ」

「うちの犬だ」

「すみません……。
 何処ぞのジェダイ・マスターかと……」

 


 なにがジェダイ・マスターだ、と十文字は朝霞を見上げていた。

「……まあ、実物も似てなくもない」
と言いながら、立ち上がる。

「そ、そうなんですか」
と言う朝霞を置いて、荷物を抱え美術室を出た。

 ……俺が怒ってると思ったかな、と渡り廊下まで行ってから思う。

 お前がいきなり、携帯の番号とか訊いてくるからだ。
 いや、訊いてきたのは、他の女子だったが。

 だが、あのとき、十文字の目に入っていたのは、その遥か後ろでびくびくしていた朝霞だけだった。

 なんで俺に番号を訊いてくる?
 まさか、あいつ俺に気があるとか?

 お前が好きなのは、ゲームの世界の王子様じゃなかったのか。

 

 夜、十文字は食事をしながら、スマホを見、風呂から出てスマホを見、寝る前に、スマホを見た。

 そして、翌朝、登校中にキレる。

「入れてこねーじゃねえかっ」

「えっ、先輩待っててくださったんですか、すみませんっ」
と朝霞が謝る。

「待ってないっ」

「なんの話だ?」
と朝霞の横で、つり革を持った廣也が口を挟んでくる。

 その横にいる佐野村がそっけなく言ってきた。

「朝霞が、昨日、十文字先輩に携帯の番号訊いたんですよ」

「わっ、私がじゃないよっ」

 朝霞は真っ赤になって手を振りまくる。

 ほう。
 お前じゃないのか。

 じゃあ、教えるのやめようかっ、と否定しつづける朝霞に、凶悪な気持ちになって、十文字は思っていた。

「すみません。
 おにいちゃんにまだ訊けてなくて。

 っていうか、訊くのがちょっと悔しくて」

 朝霞は廣也を窺いながら、言ってきた。

「そうか。
 じゃあ、別にいい」

「あっ、あのっ。
 これから教えてください、これからっ」
と朝霞は少し背伸びして言ってくる。

 ……あまり近寄るな、と思いながら十文字は言った。

「いや、教えて、かけてこられても、うざいからいい」

 いや、本当だ。

 朝霞からかけてこられたら、らしくもなく緊張して、どうしていいからわからなくなってしまいそうだから……。

 だが、
「大丈夫ですよ、どうせ、ほんとにかけたりはしませんから」
とあっさり朝霞が言ってきたので。

「じゃあ、教えなくていいよなっ」
とキレてみた。


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