33 / 65
王子はまだ穴を掘っています
誰かが覗いています
しおりを挟む気のせいだろうか。
誰かに見られている気がするのだが……。
朝からどうもそんな気配がする、と思いながら、朝霞は振り返り、振り返り、女子トイレに入っていった。
ほらほら、みなさん、私もトイレとか行くんですよ~、
と思いながら、手を洗っていると、いつぞや、
『朝霞様がトイレになんて行くわけないじゃないの』
と言っていた子が側にいたので、ちょうどよかった、と朝霞は思った。
もうみんなの過度な期待は少しずつ裏切っていった方がいいのでは、と思っていたからだ。
今までずっと、人の期待を裏切るのは申し訳ない気がしていたのだが。
これはこれで、みんなを騙しているわけだから、よくないな、と思い始めたのだ。
彼女がハンカチを忘れたようだったので、
「どうぞ」
と微笑み、朝霞はハンカチを差し出した。
これで、バッチリ。
一緒にトイレに居ることをちゃんと認識してくれただろう。
そう朝霞は思っていた。
「あっ、ありがとうございますっ」
とその子は赤くなり、貸した意味があるのかというくらい軽く拭いて、返してくれた。
よしよし。
これで、おかしな妄想はなくなるだろう、と思っていたのだが。
彼女が友人と話す声が聞こえてきたので、トイレを出て、すぐ振り向く。
「今、朝霞様にハンカチ借りちゃった~」
「ええっ? いいなあ。
何処でっ?」
「お手洗いで」
「えっ? 一緒に行ったの?」
と何故か、少しうらやましそうにその友人は言ったが、ハンカチを貸した子は笑い、
「違うわよ。
朝霞様がトイレに行くわけないじゃない」
と言った。
いやいやいやっ。
私、今、一緒にトイレにいましたよねっ?
ハンカチ貸しましたよねっ?
私、人にハンカチ貸しにトイレに行ってるわけではないんですがっ。
乙女の妄想、暴走すると半端ないな~、と最早、訂正するのは諦めて、
「ハンカチ、綺麗にアイロンかかってて、いい匂いだったー」
と言うのを聞く。
「そういえば、制服もいつもパリッとしてるよね、朝霞姫」
いや、アイロンかけるのが趣味なのは、兄なんですが。
そして、今、貸したのは、もふもふのハンカチだったので、アイロンはかかっていないのですが。
だが、まあ、いい匂いのところだけは真実だ。
我が家は洗剤を、洗浄力とかではなく、匂いで決めているからな。
そこのところは褒められて、ちょっと嬉しかったので、機嫌よく教室に戻ろうとして気づく。
……やはり、誰かがこちらを見ている。
だが、振り返ってみても。
こちらを見ている人はたくさんいるが、今、感じたような、不穏な気配を発しているものはいなかった。
そういえば、今、階段側の廊下の角に誰かが隠れた気がしたのだが……。
……まあ、気のせいか。
これは兄に指摘される悪い癖なのだが。
朝霞は、ある程度まで考え込むと、めんどくさくなって、悩むことを放棄してしまうのだ。
ま、いっか、と思いなから、朝霞は教室へと向かった。
1
あなたにおすすめの小説
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
【完結】憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる