あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ

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お茶汲み秘書の話すのやめときたい秘密

着替えないのか……?

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「じゃあ、一緒に行くか。
 お前迷いそうだし」

 そう海里はあまりに言った。

 なんだかわからないが、結局、大浴場に一緒に行くことになったようだ。

 あまりは荷物の算段をし、そのまま出て行こうとする。

 いや、待て待て、と海里は思った。

 お前、浴衣に着替えないのか。

 どうせこの女、なんだかんだで、せっかく宿に泊まっても、なにもさせずに帰る気だろう。

 せめて、湯上がりの浴衣姿くらい見せてくれてもいいんじゃないのか?

 なあ、寺坂、と此処には居ない寺坂に向かい、同意を求める。

 そうですよね、支社長、と彼なら熱く頷いてくれるはずだからだ。

 寺坂、今頃、桜田とうまくやっているだろうか。

 最初、寺坂と来ようかと思っていたのだが、寺坂に訊くと、今日は、桜田と約束しているのだと言ってきた。

 どうやら、初めて桜田を誘ったらしいので、それをやめさせるのもどうかなと思い、あまりを連れてきたのだが。

 それにしても、寺坂に、女性に声をかける勇気があったとは、と感心している間にも、あまりは、財布から札を二枚くらい出し、部屋を出て行く準備をしている。

 待て待て。
 着ようじゃないか、浴衣。

 着替えないのか。

 着替えよう。

 着替えるべきだ。

 しまった。
 さっきのあまりの変な活用みたいになってしまった、と思う。

 今にも出て行きそうなあまりに、
「……着ないのか?」
と声をかけた。

 寺坂が桜田を誘えたのに、この俺が、浴衣を着てくれという一言が言えないわけもあるまい、と思って頑張ってみた。

 は? なにがですか? とあまりが顔を上げる。

「浴衣に着替えた方が脱ぎ着が楽なんじゃないのか?」

「あー、そうですね。
 でも、別にいいような」

 相変わらず、大雑把な奴だな、と思っていると、あまりは、ふいに気が変わったようで、

「あ、やっぱり着替えます。
 まだ時間大丈夫ですか?」
と訊いてきた。

 よかった。
 勇気を出してよかった。

 やったぞ、寺坂。

 よかったですね、支社長っ、という寺坂の声が聞こえた気がした。

 成り行きで雇った寺坂だったが、今では、いろんな面で支えになってくれる、良い部下だ。

「あっ、じゃあ、着替えてきますね」
と笑って、あまりは、浴衣の籠を手に小さな和室に入っていった。


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