ここは猫町3番地の3 ~凶器を探しています~

菱沼あゆ

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凶器を探しています

すぐに犯人を見つけないでくださいっ

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 中本の車とピンクのトラックが総合体育館に着く。
 車を降りながら中本が叫んだ。

「スマホの位置確認をしたところ、佐久間さん、この近くに居るみたいなんですっ。
 まだそんなに遠くまで行ってないと思うのでっ」

「よしっ、じゃあ、手分けして探そう!」

 そう中本と将生が声を掛け合っているその最中、琳は目が合ってしまっていた。

 まだ佐久間を連れ去らないまま、セメント造りの男子トイレの中に居た犯人と。

 トイレの窓越しに目が合った瞬間、そのガタイのいい男はビクリとした。

 今の中本たちの声が聞こえていたのだろう。

 ……これ、犯人なんだろうな、と琳が思ったとき、中本が言った。

「さあ、雨宮さんっ。
 お店もおばあさんたちに任せてきたことだし。

 好きなだけ探偵してくださいっ。

 でも、こっちが推理する前にわかっちゃいましたとか。
 探す前に犯人見つけちゃいましたとかなしですよっ」

 勢いをつけるためか笑いながら、中本は言っていた。

 だが、もう、犯人と目が合ってしまっている……。

 フリーズする琳の視線を追ったのか、横に居た将生も合ってしまっている。

 刹那も合ってしまっている。

 社長から電話がかかってきたので、まだトラックの運転席に居た水宗だけが見ていなかった。

 次の瞬間、犯人がトイレから飛び出した。

「犯人ーっ。
 たぶんーっ」
と琳が指差す。

 ええーっ!?
 僕、今、張り切ったとこなのに~っと中本が叫び、琳たちが走り出す。

 刹那が意外にも一番速かった。

 犯人はすぐ側の駐車場にとまっていたピンクのトラックに駆け寄ると、助手席のドアを開け、乗り込んだ。

「あのトラックかっ。
 早く出せっ」

 えええ~っという水宗の叫びが聞こえてくる。

「出さないのなら退けっ。
 ピンクのトラック野郎っ」

 だが、この男が犯人だと気づいた水宗はハンドルを死守しようと頑張っている。

「み、水宗さん、降りてくださいっ」

 犯人になにかされたら危ないと思った琳が叫ぶ。

「死んでもラッパを離しませんでしたみたいになってるな」

 横を走る将生を振り向き、琳は言う。

「宝生さん、なに呑気なこと言ってんですか~っ」

「大丈夫だ。
 あいつ、水宗さんをる凶器も麻紐のようだから」

 なるほど。
 わああああっという顔をした水宗の首に犯人が麻紐をかけようとしている。

「絞め殺すのは時間かかるのにな」

 監察医らしいセリフだが、呑気だ、と思ったが。

 そのときには、もう刹那が運転席のドアを開けていた。

 将生にはそれが見えていたから、ゆったり構えていたのだろう。

「両手を挙げて降りてくださいっ」
と刹那が犯人に向かい、叫ぶ。

「……あの人、誰よりも刑事っぽくないですか?
 見た目もドラマに出てくるイケメン刑事みたいだし」

「犯罪者予備軍なのにな……」

 だが、刹那はその犯罪者予備軍なところを生かして犯人を捕まえていた。

 いつでも里中をれるようにと鍛えていた肉体を生かして、素早く水宗を降ろし。

 いつでも里中をれるようにと持ち歩いていた折りたたみナイフを犯人に突きつける。

「手際いいですね。
 迷わず今から里中さんのところに行ってもいいような」

「それ、警察と救急車も手配してから、安達さんに進言しろよ」

 いや、手際良すぎて、一撃でやっちゃいそうですよ、と思う琳の方に水宗が這ってくる。

 刹那の邪魔にならないよう、匍匐前進ほふくぜんしんでこちらに来ているようなのだが。

 まだ電話が切れていなかったらしく、水宗は社長としゃべっていた。

「いえ、大丈夫ですっ。
 助かりましたので、今から田中さんのお宅に向かいますっ」

 殺されそうになったのに、次の仕事場に行こうとする水宗を見て、将生が言う。

「……あの造園会社、実はブラック企業なのか?
 それとも、あいつが社畜の鏡なのか?」

「いやまあ、水宗さんが義理堅いだけだと思いますけどね……」

 遅れて追いついた中本に引き渡される犯人を見ながら琳はそう呟いた。

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