ここは猫町3番地の3 ~凶器を探しています~

菱沼あゆ

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凶器を探しています

みんな青くなりました

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「さて、お集まりの皆さん」

 水宗のトラックの後ろから、中本の車で追いかけてきた琳は降りるなり、そう言った。

 そのまま沈黙していると、
「お集まりの皆さんで止まるなよ」
と松本に言われる。

「いや~、刑事さんたちがいらっしゃるのに、私が推理を披露するのもな、と思いまして。
 でも、なんかいっぱい人が居るんで、一度言ってみたくなりまして」

 ははは……と琳は笑ったが。

 佐久間は、
「いや、……僕、なんにもわかってないんで。
 推理なんて披露できません」
と青ざめ、中本は勢い込んで、

「僕はそのうちできると思いますよっ。
 でも、あと一時間くださいっ」
と言ってきた。

 いやいや、一時間、松本さんも水宗さんも此処に止めておけないですよ、と思いながら、じゃあ、ちょっとだけ、と琳は言った。

「もともとは松本さんが被害者で、被害者の方が加害者だったんですよ」

 は? という顔を全員がした。

「松本さん、此処、被害者の方と関係あるおうちじゃないですか?」

「そうだ。
 あいつのばあちゃんちだ」

 ……たぶん、と松本は付け足してきた。

「この間まで、あんなものなかったから、ちょっと自信がなくなってきたが」
と松本は昼の光に照らし出された金次郎さんを見ていた。

「水宗さん。
 あのとき、社長さんからかかってきた急ぎの電話って、この田中さんちからの依頼だったんですよね?」

「そうです」

「田中さんちのお孫さん、『田中喜代彦きよひこ』さんからかかったんじゃないですか?」

「そうみたいです。
 お孫さんがおばあちゃんの代わりにかけてこられたとかで。

 そういえば、この金次郎像を置いといていいんじゃないって田中さんに言ってくれたのも、そのきよちゃんっていう、お孫さんだったんですよ。

 あ、そういえば、コンビニの珈琲のクーポンくれたの、田中のおばあちゃんでしたね……」

 誰が被害者なのか察しはじめたらしい水宗の顔が青ざめてきた。

 そもそもは偶然だったと思うんですけどね、と琳は言う。

「今、ニュースに被害者の方のお名前が出てたんですよね。
 田中喜代彦さんって。

 水宗さんが今、急いで行こうとしているおうちも田中さん。

 その田中さんちから、水宗さんが総合体育館横で車を止めることになった原因の電話がかかってきたわけですよね。

 まあ、よくある名字だし、と思ったんですが、ちょっと気になって」

 真相はこうじゃないかと思うんです、と琳は語る。

「まず、田中喜代彦さんは金銭トラブルにより、松本さんを呼び出して殺そうとした」

 俺が殺される方だったのか、と松本は青くなる。

「……なんで麻縄なんて落ちてるんだとは思ったんだよな。
 それも巻いてある麻縄の側に、ちょうどいい感じに切られた麻縄があったんだ」

 そういえば、近くの木にデッカいスコップも立てかけてあった、と松本は言う。

「田中さんは松本さんが殺したあとの凶器をどうしようかなと思いながら、あなたの到着を待っていた。

 そのとき視界に入ったんです。
 ピンクのトラックと珈琲を手にコンビニから出てきた水宗さんが。

 そうだ、と田中さんは思いました。

 凶器は麻縄です。
 水宗さんのトラックには園芸用品がいろいろ載っています。

 木を隠すには森の中。
 あの中に放り込んだら見つからないのでは。

 そう思った田中さんは、とっさに造園業者に電話をかけました。

 あの二宮金次郎、やっぱり夕方までに取りに来てくれと。

 あんなものを置いて帰ってよかったのだろうか思っていた社長は案の定、急いで、水宗さんに電話をかけました。

 水宗さんは、田中さんの思惑通り、コンビニから道に出てすぐの総合体育館側で電話を取るために止まりました。

 広い道なので、トラックを止めやすかったからです。

 そこに松本さんが現れました。

 田中さんは、急いで松本さんを殺し、凶器をまだしゃべっている水宗さんのトラックに放り込もうと思っていました。

 ところが、逆に田中さんは自らが用意していた麻縄で殺されてしまいます。

 そして、被害者から加害者へと変わった松本さんの目にもそれが映ったんです。

 ピンクのトラックと電話でしゃべってて、なにも気づきそうにない水宗さんです。

 そこで、松本さんは、とっさに水宗さんのトラックに麻縄を放り込みました。

 でも水宗さんのトラックは、もともと被害者の人が用意していた凶器の捨て場だったんですよ」

「だが、田中さんが凶器を放り込むより、水宗さんが電話を終わらせる方が早かった可能性もあるよな」
と将生が口を挟んできた。

「そのときには別の場所に捨ててもいいと思ってたんじゃないですかね?
 田中さんが水宗さんを巻き込もうとしたのは、単に松本さんと同じ理由ですよ」

 ああ、と松本は納得した。

「こっちは殺すの殺されるのとテンパってるのに、あのゾウとこいつが、めちゃくちゃ呑気そうで腹立ったんだな」

 真っ青になって水宗は言う。

「今度から陰鬱な顔で仕事することにします」

「……そんな造園業者とは縁を切ると思いますね、みんな」
と琳が言ったとき、中本が首を傾げた。

「でも、さっき、なかったですよね?
 水宗さんのトラックに、その凶器の麻縄」

「そうですよね。
 あっ、でも、そうか。

 それだったら、たぶん……」
と言いかけ、今度は琳が青くなる。


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