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蝋人形とお見合いしました
不安しかない結婚
今日は軽い感じの見合いなので、両親たちはホテルの別室で食事をして待っていた。
双方の親と仲人に取り囲まれたのでは若い二人が緊張するだろう、という配慮からのようだった。
いや、行正さんの上官夫妻がいるだけで、私は緊張するんですけどね、と咲子が思ったとき、
「では、お二人で庭でも歩いてらしたら?」
という定番の見合いの言葉を聞いた。
外国人観光客などを狙って建てられた素敵なホテルだ。
この庭を歩くのは悪くないけど。
この蝋人形の人とか……。
上官夫人が待っていた両親たちに上手く話がまとまったことを報告する。
親たちは上官夫妻に笑顔で礼を言っていた。
笑顔がないのは、夫婦となるはずの咲子たちだけだ。
双方の両親はすでに別室で盛り上がっていたらしく、蝋人形 行正と瓜二つの母、静女が、
「ふたりで暮らすのに良い家がありますの」
などと言っている。
どのみち、断れる感じの話ではなかったのだな、と思いながら、咲子はチラ、と行正を見たが、行正は一瞬、合った視線をすぐにそらしてしまう。
そして、顔を背けたまま、深い溜息をついていた。
……この人とはやっていけそうにないなー。
どうせ、家の格と年齢が釣り合うからというだけで決められた結婚。
端から期待なんてしてはいないけど……。
住居の話など、細かい話まで出てきたせいか。
娘を嫁に出す実感が出てきたらしく、父は目にうっすら涙を浮かべていた。
その横で、弥生子は微妙な顔をしている。
これですっきり、せいせいするわ、という顔をしながらも、何処か寂しそうだった。
いろんな感情がない混ぜになった両親の心が流れ込んできて、自分もしんみりしてしまう。
お手洗いに行き、弥生子に帯を直してもらい、
「しっかりしなさいよ」
となにをしっかりしたらいいのかわからないが言われながら、咲子はくすんだ紅い絨毯の敷かれた廊下に出た。
弥生子はロビーで合流した静女や上官夫人と話していて。
父は行正の父と話している。
わ、私はどうすれば?
行正さんは何処ですかっ。
咲子が行正を探してウロついていると、行正はもう外に出ていた。
上官といい景色を眺めながら、二人で紙巻き煙草を吸っている。
厳しい顔つきの上官だが、公爵家の見合い話をまとめるという大仕事を成し遂げたあとだからか、ホッとしたように笑っていた。
「どうかね、行正くん。
伊藤家のお嬢さんは」
どうせ、断れない見合いだったのだろうが。
一応、その意見を訊いてみたいと思ったようだった。
煙草を吸いながら、遠くを見つめる行正は、
「大変可愛らしいお嬢さんで」
と口では言っているが、その目が死んでいる。
――向こうから断ってくれたらよかったんだが。
親がうるさいから、俺からは断れないし。
だがまあ、伊藤家の娘だし。
上官や親の勧める娘と結婚しておいた方が間違いないだろうしな。
そんな行正の心の声がなだれ込んできた。
うっ、そんなことだろうと思ってましたけど。
ズバリ聞かされると辛いな、と思いながら、咲子は物陰で、じっとしていた。
すると、
「咲子さん、迎えに行った方がいいんじゃないかね。
君は仕事はできるが、どうもその手のことには疎そうだから、ちょっと心配だよ。
今は女性も物の考え方が西洋化してきているから、こんなときには、さっとエスコートできるようじゃないと、奥さんと上手くいかないと思うよ」
そう言いながら、上官が振り返る。
咲子と目が合った。
「ああほら、咲子さんが来てくれたよ。
さあ、庭をご案内してあげなさい」
いや、庭をご案内って、俺もここよく知らないんだが、という目を行正はしていた。
だが、それでも咲子の前まで来ると、
「……行きましょうか」
とは言ってくれる。
はい、と咲子はついて行き、美しい庭園をまったく会話のないまま歩くという地獄の時間を過ごした。
こ、こんなので、私、この方とやっていけるのでしょうかね……?
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