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蝋人形とお見合いしました
祝言は中止になりました
その後、三条行正とは会うこともなく、結婚の準備は進んでいった。
屋敷はもう整っているし、嫁入り箪笥なども職人に頼んだ。
祝言の準備もはじまっていたのだが。
突然、行正が祝言を挙げることを拒み、中止になった。
「なに言ってるの、籍は入れないんだから、祝言くらい挙げなさいよ」
と静女は言ったらしいのだが、行正は、
「結婚生活を続けていけると覚悟ができたら」
と言って強硬に断ったらしい。
張り切って婚礼衣装の準備をしようとしていた弥生子は肩透かしを食らい、
「もうやめなさいよ、こんな結婚」
と言い出したが、父は、
「いやいや、行正くんは立派な男だ。
ちゃんと咲子との結婚生活を続けていけるかどうか、真剣に考えてくれている」
と感心していた。
いやいや、どうなんですかね~?
簡単に私を放り出すためじゃないですかね~?
と咲子自身は危ぶんでいたのだが。
「あー、暇になっちゃったわ。
咲子、あんたもやることなくて暇でしょう?
なにかおいしいものでも食べに行きましょうよ」
と弥生子に言われ。
婚礼支度を整えに行くはずだった百貨店や、レストランを連れ回され、日々、おいしいものを食べさせられた。
――真衣子は遊び歩いて言うこと聞かないし。
ちょうどよく連れ回せるこの子がいなくなると寂しいわ。
と嬉しいんだか、嬉しくないんだかわからない弥生子の心の声が流れ込んでくる。
レストランで咲子が微笑み、
「お義母さま。
結婚してからの方が自由な時間があると聞きますし。
またいつでも誘ってくださいね」
と言うと、弥生子は、
「嫌よ。
あなたを連れて歩くと、目が肥えてて、いい物ばかり欲しがるからお金がかかるのよっ」
と言い返してきた。
いや、だからですね、お義母さま。
私が、あ、これ、いいな、と思って、じっと眺めていても。
別にその度に、買ってくださらなくてもいいのですよ……?
そう思いながらも、笑ってしまう。
「さ、じゃ、次行くわよ」
と弥生子は立ち上がる。
「あのっ、まだデザート食べ終わってませんけどっ」
と慌てながらも、咲子はついて行った。
それからしばらくして、三条家から連絡があった。
行正との住まいとなる家を見て欲しいというのだ。
まあ、気に入らなくても断れませんけど、と思いながら、咲子はその日を迎えた。
でも、これから暮らす家を見ることより、今日、行正さんが迎えに来てくださることの方が緊張するんですけどっ。
こんな状態で、私、この先、行正さんと暮らしていけるのでしょうか?
心臓がバクバクしながら待っていると、行正は黒塗りの電気自動車で迎えに来てくれた。
見た目は馬車のようでもある。
なんか行正さんに似合ってるな、と思った。
行正は運転手が開けてくれたドアの前で、少し迷ったあとで、手を差し出してきた。
――親も見送りに出ているし、仕方ない。
ここはエレガントに行くか。
という行正の心の声が聞こえてきた。
行正に手を借り、馬車のような車に洋装で乗る咲子を見た真衣子が声を上げる。
「素敵ですわ、お義兄さまもお義姉もっ。
まるで、西洋の本の挿絵のようっ」
私も結婚したくなりましたわっ、とはしゃぐ真衣子を車の窓から振り返りながら、
そうね。
真衣子は幸せな結婚をしてね……と咲子は、しんみり眺めていた。
そのあと、車の中で訪れるのは、真衣子が憧れるような幸せなデエトの時間ではなく。
ただただ沈黙する蝋人形との血も凍るような時間だったのだが――。
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