大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ

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蝋人形とお見合いしました

初めてのデエト(?)

 
 ガソリンが手に入りにくかったせいもあり、意外に電気自動車が多く輸入されていた大正時代。

 バスなども電気で走ったりしていた。

 まだ車は少なく、渋滞もないので、咲子たちはすぐにその屋敷に着いた。

 基本、和風の屋敷なのだが、一部が西洋風の造りだ。

 金に困って一家離散した商家から、ぽん、と静女が買い取ったらしい。

 素敵。

 ……一家離散したおうちから買い取ったというのが気になるけど。

 なにか我々の未来をも暗示している気がする、と咲子は思っていたが。

 静女は縁起が悪いとか、気にするような女ではなく。

 その息子の行正もまた同じだった。
 


 行正が玄関扉を開けてくれ、咲子に中を見せてくれた。

 広く天井の高い玄関ホールは洋風だった。

 裕福な商家の持ち物だったというだけのことはあり。

 イギリス人設計士が作ったというこの屋敷は、細かい部分まで、ふんだんにお金がかけられていて。

 それでいて品よくまとまっていた。

 お義母さまが気に入って、即買われたというだけのことはあるな、と咲子はぐるりとホールを見回す。

「あの」
と咲子は行正を振り向いた。

「使用人の方々は、もう決まっていらっしゃるのでしょうか?
 母が気にしていたのですけれど」

 これだけの屋敷だ。

 結構数がいるのではないだろうか。

 三条家が用意してくれるのだろうが。
 人数は足りているのだろうかと、弥生子が今朝心配していたのだ。

 使用人は、数だけそろえばいいというものではない。

 下働きなどせずとも、他にいい職もある昨今、信頼できる使用人を探すのは大変だ。

 ところが、行正は咲子を見下ろし、
「使用人?
 いるのか?」
と言い出した。

 ええっ? と咲子は驚く。

 あなたは私にこの家の仕事をすべてをさせるつもりだったのですかっ?

 家の中のことは頑張れても、庭の剪定せんていまではできませんよっ。

 ……いや、待てよ。
 学べばなんとかっ、
と妙なところで根性のある咲子は、帰って庭師の人に習う覚悟を決めていた。

「そうか……。
 いるよな」

 玄関ホールを一際、明るくしている、天井付近に並ぶ丸窓を見て行正が呟く。

「まあ、母が用意してくれているだろう」

 そう言う行正はなにやら少し元気がなかった。

 咲子は行正の横顔をじっと見つめてみた。

 行正の心の声が聞こえてくる。

 ――いるのか、女中。
 贅沢な女だな。

 いやいやいや、普通の中流家庭でも、女中さんいますよっ。

 まだ家電が高価であまり普及していなかったので。

 何処の家でも、女中がいなければ、家事をこなすことは困難だった。

「……奥の方も見たいか」

 行正は威圧的にそう訊いてくる。

「み、見たいです」

 まだ玄関しか見てないですよ。

 このまま帰ったのでは、なにしに来たのかわからないではないですかっ。

 お義母さまに、職人さんが精魂込めて作ってくれている箪笥を置くのにふさわしい部屋を見つけてきなさいと言われていますっ、
と咲子が身を乗り出すと、行正は何故か一歩下がった。

 やはり、私は行正さんに嫌われているようだ、と咲子は暗澹あんたんたる気持ちになる。

 結婚前からこんな調子とか。
 いくら、家や上官さまに決められた結婚とはいえ、寂しすぎますっ、
と思ったとき、溜息をついて、行正が言った。

「仕方ないな。
 見せてやろう」

 ……今、行正さんの心の声、聞きたくないな~。

 咲子は、うっかり行正の心の声が流れ込んでこないよう、歩き出す行正から、微妙に距離をとりつつ、ついて行った。

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