大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ

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蝋人形と暮らしています

私はこの家に閉じ込められるのでしょうかっ?

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 咲子が行正に襲われた次の日は、朝からコロッケだった。

 わあ、コロッケだ、と咲子は喜ぶ。

 シャンデリアのあるダイニングルームでの朝食だったが。

 メニューは和食だった。

 ほかほかのごはんに湯気の立ちのぼるお味噌汁に、お漬物にコロッケに目玉焼き。

 なんか落ち着くな。

 いや、この旦那様には落ち着かないんだが……。

 そんなことを思いながら、行正と向かい合わせの席に咲子は座った。

 コロッケにソースをかけて食べると、ごはんによく合っておいしい。

 外はサクサク。
 中はホクホク。

 濃いソースのかかったところはしっとりしていて。

 コロッケ、最高ーっ!

 思わず、にんまり笑ったとき、行正と目が合った。

 はっ、昨日、襲われたというのに、コロッケごときで喜んでしまうとは……。

 いやいや、コロッケさまに対して、ごときはなかったですね、と思いながら、咲子は黙々とコロッケを食べる。

 すると、
「機嫌が悪いのか?」
と行正が訊いてきた。

 ゆ、行正さんが私の機嫌を気にするなんてっ、と咲子は驚く。

 いや、行正の顔は、相変わらずの無表情ではあったのだが。

「悪いです」

 素直にそう認めると、
「何故だ」
と行正は訊いてくる。

「行正さんがまさかあのようなことをなさるとは思っていなかったので」

「……俺がするとは思わなかったって。
 じゃあ、お前は夫以外の誰とするつもりだったんだ」

 いや、誰ともしませんよ、そんなこと、と思う咲子に行正が言う。

「どうでもいいが。
 俺がいない間、暇だろうが、あまりウロウロしたりするなよ」

 ええっ!?
 あなたと結婚した以上、一生この家に閉じこもっておけとっ?

 自分がどんな絶望の表情を浮かべたのかわからないが。

 行正は、ちょっと困ったように眉をひそめ、
「いや、女友だちと出かけたりするのは構わない」
と付け足してきた。

「あ、そ、そうなのですか?」

「家に女性の友だちを呼ぶのも別にいい」

 女学校時代の友人たちなど呼んでもいいんじゃないのか、と提案され、文子や美世子たちの姿が頭に浮かんだ。

 ――つい、この間まで、毎日顔を合わせていたのにな。

 みんなそれぞれの道を歩き出し。
 自分も結婚の準備で忙しかったので、あまり会うこともなくなっていた。

 早速、声をかけてみよう、と思いながら、
「ありがとうございます」
と咲子は頭を下げる。

 それにしても。

 ウロウロするなよとか、厳しめのことを言うわりに、そんなに行動に制限ないような?

 私は一体、なにを禁止されたのでしょうね?

 今こそ、行正の心の声を聞きたいとその顔を見つめてみたが、タイミングが悪かったのか。

『ほんとうに面倒な奴だな』
という声が聞こえてきただけだった。

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