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あなたのことだけわかりません
駆け落ちもしてみたかったのにっ
その後、結局、
「このままでは、文子サンが親不孝な娘になってしまいます」
とルイスがまともなことを言い、
二人は一度浅野の屋敷に戻って両親を説得することになったらしい。
校長先生は知っていたらしいが。
ルイスは英国貴族の次男坊だった。
文子が結婚する予定だった男は、文子とは披露パーティまで、ほとんど出会わなかったこともあり。
「浅野家の娘なら、誰でもいいです」
と言ったそうで。
文子の代わりに、三女が嫁ぎ。
あっさり両親に結婚を認められた文子は船に乗って、英国に旅立っていった。
結婚の報告をルイスの両親にするためだ。
少し向こうでゆっくりして来ると言う。
そもそも、ロンドンまで、船で四、五十日かかるのだ。
しばらく戻っては来られないだろう。
「ああ……おともだちが遠くにいってしまいました」
港で船を見送りながら、咲子は寂しがったが、美世子は、
「なに言ってんのよ。
これで英国に遊びに行く口実ができたじゃない」
と強がる。
「そうですね」
と咲子は美世子に微笑みかけたが、美世子は、
「あー、でも、なんか悔しいわ~。
英国貴族のもとに嫁ぐとかっ。
私も国際結婚とかしてみたかったーっ。
あっ、駆け落ちもしてみたかったわっ。
あなたは恐れ多くも行正さまと結婚するし。
なんなのっ?
私が一番恵まれてなくないっ?」
と高い仕立ての服に、異国から取り寄せたバッグと質の良い日本製の日傘を手に美世子は言う。
はは……と咲子が苦笑いしたが、
「なによ。
愛はお金じゃ買えないのよ」
と美世子は言い放つ。
そのとき、黒塗りの自動車が美世子を迎えに来た。
ステッキを手にした洋装の男が降りてくる。
「あら。
もしかして、美世子さんの旦那様では?」
「ああ、こっちに用事があるから迎えに来てくれると言ってたからね。
乗っていきなさいよ」
と言われたが、いえいえ、と咲子は遠慮した。
ご主人は、ふたりきりで横浜の街をウロウロしたりしたいのかもしれないと思ったからだ。
「それにしても、こう言ってはなんですが。
ご主人、垢抜けましたね」
美世子と結婚する前は、資産家で容姿も悪くないが、身なりにはあまり構わないというか。
失礼にならない程度に良い物を身につけてはいるが。
あまり服や髪型などには興味なさそうな感じだったのだが。
「私が腕に寄りをかけて、磨いているからね」
とちょっと威張ったように言う美世子がなんだか可愛かった。
「咲子さまっ、不二家でショートケーキを買ってまいりましたっ」
咲子たちが見送りをしている間、横浜での買い物を楽しんでいたユキ子がやってくる。
「ありがとう。
じゃあ、帰りましょうか」
ユキ子とふたり、今日は馬車に乗って、横浜の港を後にした。
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