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わたし、人の心が読めるんです
一生、そんなこと口に出して言いそうにない人だけど
しおりを挟むそのまま咲子たちは伊藤家に向かった。
「そういえば、この間もそんな感じの妙なことを言ってたわね」
自分に心が読める気がする、と言った咲子に向かい、弥生子はそう言った。
「あのときも言ったけど、あなたは全然人の気持ちに敏感じゃないわよ。
まあ、そのぬる~い感じが付き合いやすいとこではあるんだけど」
「でも、奥さま」
と横から、ばあやが口を挟んでくる。
「咲子さまはよく、奥さまがお茶を飲みたがっているときに、飲みたいお茶を女中たちに淹れさせて運んでらっしゃいましたよ」
「……自分では淹れないんだな」
と横で行正が呟く。
いやいや、私が淹れても美味しくないですからね、と思う咲子の前で、弥生子が、ああ、あれね、とちょっと上を見る。
「そうそう。
小さなあなたが、
『お義母さま、今日はお紅茶ですか?』
とか女中に淹れさせて運んできてくれるから、
『あら、よくわかったわね。
ありがとう』
って、違ってても言ってたわ。
なんかちょこちょこ運んできてくれるのが可愛くてね」
……そうだったのかっ、と咲子が衝撃を受けたとき、ばあやが苦笑いして言った。
「そうだったのですか。
実は私も、咲子さまが、
『ばあや、今日はカステラの気分?』
とかおっしゃるときがあって。
違っていても、そう訊いてくださる咲子さまがお可愛らしかったので。
『そうです。
よくおわかりですね』
って言ってたんですよ」
「……咲子」
と行正が呼びかけてくる。
「はい」
「お前のサトリだという妄想はみんなのやさしさで出来てたんだな」
あ、ありがとうございますっ、と咲子は、みんなに土下座する勢いで謝り、礼を言った。
行正と咲子はそのまま祠の方に向かい、歩いていった。
ついでに拝んで帰ろうという話になったのだ。
「……お前のサトリ話は、お前の心根がやさしいから。
みんなに気を使い、人の顔色を窺いながら生きてきたっていう話かと思ってたんだが。
違ったな」
「やさしかったのは、みなさんの方でしたね……」
お母さまは違うけど。
でも、知らないところで、お義母さまたちみたいに、自分に合わせてくれていたのかもしれないな、と咲子は思う。
……一生、そんなこと口に出して言いそうにない人だけど。
「お前は愛されて生きてきたんだな」
改めてそう言われ、はい、と咲子は涙ぐむ。
行正と二人、目を閉じ、祠に手を合わせた。
家内安全、健康第一。
行正さんとみんなと、ずっとこうして生きていけますように――。
目を開け、行正と視線を合わせたとき、彼の心の声が流れ込んできた。
『お前が好きだ。
大好きだ』
――え?
行正は黙って自分を見つめている。
こ、これも私の妄想なのでしょうかっ?
いやいや、そんなおこがましいこと考えるとかっ。
でも、行正さんがそんなこと思うわけないですもんねっ。
咲子は、はは、と笑いながら、行正を見る。
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