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ささやかなるお見合い
知らない間に……
しおりを挟む万千湖が出て行ったあと、雁夜はカップ麺を作りながら、万千湖のお弁当をおいしくいただいていた。
「うん、うまい」
と卵焼きをもう一口食べて呟く。
「へえ、白雪さんって料理も得意なのか。
『ああいう人』って、あんまり料理とかしないのかと思ってた……」
と笑う。
「雁夜、なに独り言言いながら食ってんだ?」
その声に振り向くと、小鳥遊駿佑が立っていた。
給湯室の先にある、その場で挽いてくれる自動販売機のコーヒーを手にしている。
「いやいや。
今、おいしいお弁当もらってね」
ふうん、と言いながら、駿佑はチラとその弁当箱の中を見る。
「……冷凍食品ばっかりだな」
「でもおいしいよ。
あ、この卵焼きもおいしいよ」
ちょっとあげるね、と雁夜は少し切って駿佑に渡す。
駿佑は洗った手で受け取ると、口に放り込み、
「……うん、まあ、悪くない」
と言った。
でしょ? と雁夜が笑う。
その頃、駿佑が自分の手料理を知らぬ間に食べていることにも気づかずに。
万千湖はキーボードを叩きながら、
今日はランチのこと、日記に書こう。
そうだ。
イラストもつけちゃおうかな、などと呑気に考えていた。
夕方、チラ、と壁の丸時計を見て、万千湖は思う。
そうだ。
課長に連絡先を寄越せと言われたんだった。
よその課とはいえ、相手は上司様。
一社員としては、素早く要求をこなさねばならないのでは。
いや、夕方な時点ですでに素早くはなかったのだが……。
でも今、経理に用事なんてないし、行きづらいなー。
なにか経理に行く理由になるものはないかな、と万千湖はデスク周辺を見ながら、ゴソゴソした。
「どうしたの? 白雪さん。
なにか落とした?」
隣の席の感じのいい男性社員、綿貫が訊いてくる。
「あっ、それですよっ」
万千湖は彼を振り向き、手を打った。
身を乗り出したせいか、綿貫がちょっと身を引き、赤くなる。
「落とし物ですっ」
「えーと。
なにを……?」
親切な綿貫は拾ってくれようとしたようだ。
「消しゴムにしますっ」
「ああ、消しゴムね」
と笑いかけた綿貫だったが、
「……え、消しゴムにします?」
と訊き返してくる。
「そうです。
消しゴムにしますっ。
ちょっと出てきますっ」
万千湖はデスクの上にあった私物の消しゴムと鉛筆をガシッとつかんだ。
「すぐに戻りますっ」
と深々と綿貫に頭を下げる。
「あ、ああ、いってらっしゃい……」
こういう職場は初めてだ。
前の職場の人が、
「挨拶とか。
丁寧すぎるくらい丁寧でいいんじゃないか?
此処だって同じだろ」
と言っていたので、そのようにしていた。
……それで合っているかは知らないのだが。
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