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ささやかなる弁当
万千湖の正体
しおりを挟む「いやいや、最近まで知らなかったんだよ。
だって、白雪くん、商店街で働いてたって言ってたから」
部長は笑って、そう言っていた。
「経歴にもそう書いてあったし。
面接のときには商店街のマスコットキャラをやっていましたとか言うから、着ぐるみに入ってたのかと思ってた。
白雪くんがアイドルだったっていうのは、最近、雁夜くんに聞いたんだよ」
そう語ったあとで、部長は息子たちを送って外に出た。
入れ替わりに、さっきからこちらを見ていた雁夜が、すっとやって来て目の前に座る。
万千湖は雁夜の方を一度見たあとで、こちらに向き直り、覚悟を決めたように口を開いた。
「実は私……
ご当地アイドルだったんです」
アイドルとはなんだったんだろうかな。
目の前のマヌケな万千湖とその言葉が結びつかず、またそう思う。
そこで、万千湖と視線を合わせた雁夜が頷き言ってきた。
「そう、白雪さんは、アイドルだったんだよ」
いや、お前は白雪のなんなんだ。
まるで、保護者かマネージャーのような雰囲気で同席しているが、と思ったとき、雁夜が言った。
「実は、僕の友だちが、ユカちゃんの追っかけで」
いや、マチカの追っかけですらないのか。
っていうか、そもそもそれ、友だちの話だろ? と思ったが、その友人に引きずられて、時折、ライブなど見に行っていたらしい。
だが、つい、不安になって訊いてしまう。
「大丈夫か?
お前、ちゃんと人気はあったのか?」
「マチカちゃんが一番人気だったよ。
面白いから」
そう雁夜は言った。
……面白いからか。
アイドルとはなんだったろうかな……とまたまた思いながら、駿佑は万千湖を見つめる。
「イベントでのトークとか。
ラジオでのトークとか、いつもマチカちゃんが一番印象的だったよ」
歌ではないのか……と思ったそのとき、駿佑はふと思い出し、万千湖に言った。
「そういえば、お前の歌、聴いたことがあるな」
「えっ?
あ、ああ、この間のラジオですか?」
いや、違う、と言うと、
「えっ? 何処でですかっ?」
と万千湖は、歌に自信があるのかないのか、動揺する。
だが、教えてやらなかった。
今まで雁夜とふたりで秘密を共有してやがったのかと思い、イラッと来ていたからだ。
まあ、よく考えたら、共有していたのは、部長と三人で、だったのだが……。
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