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ささやかなる弁当
誰もが立ち寄る100均
しおりを挟む週末のお出かけ用に、新しいいいアイテムはないかとドラッグストアで化粧品を見たあと、瑠美は100均に寄った。
保温機能も保冷機能もないが、前見た100均のドリンクボトルが気になっていたからだ。
ふたつ可愛いのがあって選べなかったのよね。
二個買ってから悩もうかしら。
いらない方、万千湖にやってもいいし、などと思いながら、店に入ると、隅にある園芸用品の辺りで、万千湖が男と話していた。
黒いロングコートの似合う、ちょっと影のあるイケメンだ。
誰っ? と瑠美は足を止めて見入る。
万千湖は男に向かい、ペコペコ頭を下げていた。
……知り合いなわけじゃないかも。
あの子のことだから、足踏んじゃって謝ってるだけかも。
イケメンだけど、ちょっと迫力あるから、ヤクザとかだったらどうしよう。
ここは……
助けに入るのは怖いから、警察に通報するとか? と瑠美が身構えたとき、男が自分に気がついた。
まずいっ、と素知らぬ顔して逃げようとしたとき、
「あ、瑠美さん」
と万千湖の声がした。
振り返ると、笑顔で手を振っている。
どうやら、ヤクザの若頭と揉めているわけではなさそうだ。
それなら、と瑠美は、すすすすっと二人の許に行った。
こんばんは、と笑顔で瑠美は若頭風のイケメンに挨拶する。
何故か、
「おはようごさいます」
と返ってきたが。
おはようなのは謎だけど、意外に丁寧ね、と思いながら瑠美は万千湖を見る。
「あ、えーと。
前の勤め先の方です。
出張で立ち寄られて」
「まあ、そうなの?
ど……」
独身っ? と訊きそうになったが、なんとかこらえる。
万千湖が、ど? という顔をしていたが、スルーした。
万千湖って前、なんの仕事してたんだっけ?
結構パソコン使えるから、IT関係とか。
いや、どっかの会社の事務かな、と思いながら、当たり障りのない会話をする。
男は時計を確認し、
「時間だ。
じゃあ、元気でやれよ。
マ……万千湖」
と言った。
名前呼びっ、と思ったが、特にラブラブな雰囲気もない。
単に仲のよい先輩後輩くらいかな、と思う。
「はい、お元気で」
男は自分に向き直ると、まるで身内でもあるかのように、
「万千湖がいろいろとご迷惑をおかけするかもしれませんが。
よろしくお願い致します」
と深々と頭を下げてくる。
「あ、はい」
と瑠美も男に向かい、頭を下げた。
男が去ったあと、瑠美は万千湖と一緒に見送りながら言う。
「いい人ね」
「そうなんですよ。
なんだかんだ言いながら、いつもああやって、私たちのために頭を下げてくれて……」
懐かしげにその後ろ姿を見ながら万千湖は言う。
「いつも頭下げてくれてって。
あの人、若いけど、あんたの上司?
ってか、たびたび上司に頭下げさせるって、どうよ?」
と言うと、万千湖は、ははは……と笑っていた。
万千湖と二人、黒いコートと人相に似合わないビンゴを小脇に抱え、雑踏に消えていく万千湖の上司(?)をいつまでも見送る。
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