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ささやかなる弁当

そして、私たちは……

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「万千湖っ」

 次の日の朝、給湯室で昨日帰りに買ったいい香りの紅茶を淹れていると、瑠美がやってきた。

昨夜ゆうべ、夢にあの方が出て来たのよっ」

 ……誰ですか、あの方って、と思いながら、万千湖はマイカップからティーバックを引き上げる。

「私の背後に影のある表情をして、あの黒いコートを着て立ってたのよっ」

 それ死神かなにかですかね……。

「運命かもしれないわっ」
と瑠美は言い出す。

「黒いコートって、もしかして、黒岩さんですか?」

「黒岩さん、名前まで素敵ね。
 いいわよね、影のあるイケメン」

 あの人の場合、常に疲れているからそう見えるだけでは……と思いながら、万千湖は訊いてみた。

「じゃあ、週末行かなくていいですか」

「なに言ってんのよ。
 それはそれよ、行くわよ」

 ……まあ、今のところ、今週末は課長に誘われていないので、別に行ってもいいのだが。

 そろそろモデルハウスの正式な返事もしないといけないしな~と思ってはいたのだが。

 なんだかんだで瑠美さんには世話になってるから、まあ、行くか、と思う。

 そのとき、タウン誌を見ながら雁夜が入ってきた。

 給湯室の突き当たりまで歩いて行き、棚にぶつかって戻ってきた。

「……お疲れ様です」
と二人で言うと、

「ああ、お疲れ様」
とようやくこちらに気づき、挨拶してきた。

「あ、そうだ。
 増本さん」

 は、はいっ、と瑠美は声を跳ね上げ、返事する。

「増本さんってカフェとかに詳しいよね?
 この店、ちょっと地図わかりづらいんだけど、場所わかる?」

 雁夜にタウン誌を見せられた瑠美は赤くなる。

 雁夜の顔が近くにあったからだろう。

 可愛いな、瑠美さん。

 ……でも、黒岩さんと日曜日のイケメンはどうなりました、と思わなくもなかったが。

「あ、わ、わかりますっ」
と言ったあとで、瑠美は暗い表情になる。

「デートとかですか?」

「ううん。
 この気を失うくらいの激辛カレーってやつが食べてみたいと思って。

 増本さん、激辛好きなの?」

 この店を知っていると言ったからだろう。

「今日、昼休みに行ってみたいんだけど。
 増本さん、一緒に行く?」

「はははは、はいっ。
 あっ、万千湖も一緒に行きますっ」

 えっ?
 私、激辛食べられませんけどっ? と万千湖は振り返る。

 二人で行けばいいじゃないですかっ。
 なに言ってんのよっ、緊張するじゃないのっ、と視線で揉め合う。

「そう。
 じゃあ、マ……白雪さんも一緒に行く?」
と雁夜が微笑んだとき、ちょうど給湯室の前を駿佑が通った。

「あ、駿佑も行く?
 激辛カレー」

「なんで好き好んで罰ゲームみたいなもの食べに行かなきゃならんのだ」

 ごもっともですよ、課長っ。

 課長と出会って、初めて意見が一致した気がしますっ、
と駿佑が、そんな莫迦なっ、と言いそうなことを思う。


 で、結局、四人で激辛カレーを食べに行った。


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