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ささやかなる弁当

出世払いはっ!?

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「……そう。
 あんたアイドルだったの。

 黒岩さんは芸能界の人だったのね。
 ヤクザの若頭か、闇のブローカーかと思った」

 だったら、黒岩さんが上司の私はヤクザの鉄砲玉か、悪の組織の人になってしまいますが……。


 そこで、瑠美は、はっ、としたように言う。

「待ってっ。
 あんた、アイドルだったんなら、もう出世したあとじゃんっ」

 出世払いするんでしょ、おごりなさいよっ、と言い出す。

「あの~、おごるのはいいんですけど。
 そんな稼いでたわけではないですよ。

 我々は商店街のマスコットキャラ的なものでしたし」

「なんだ、着ぐるみ入ってたの?」

「いや、着ぐるみじゃないんですけど……」

「そうよね。
 あんた、着ぐるみ入ってたら、あっ、とかってつまづいて、着ぐるみの頭のふっとばしそうだもんね」

 それ、子どもたちが阿鼻叫喚の騒ぎになりますよ……。

「でもそうかー。
 あんた、アイドルなのかー。

 なんかすごい人のサインとかないの?」

 もらって来てよ、黙っててあげるから、と言われる。

「……なんかすごい人って誰なんですか?」

「わかんないけど。
 何処かでなにかに自慢できそうな誰かよ」

 なんですか、そのふわっとした話、と思ったとき、黒岩が柱の陰からこちらを見ているのに気がついた。

 万千湖は、
「もうバレました。
 大丈夫そうです」
と目で呼びかける。

「そうか、わかった」
と黒岩は視線で返してきた。

 柱の陰から出て、瑠美に頭を下げ、行ってしまう。

「やだーっ。
 ほんと格好いい、黒岩さんっ。

 あ~、でも、芸能関係の人なのか。
 近寄り難いわよね~」
と瑠美が騒ぐその横で、万千湖は第一駐車場を見ていた。

「あの~、瑠美さん。
 今、レジを出て、駐車場に歩いてった人、俳優みたいなすごいイケメンだったんですけど。

 もしかして、あの人ってことはないですよね? 瑠美さんが探してるイケメン」

 ええっ? と瑠美は振り返る。

「今、出てったあの車です」
と水色の車を指さすと、瑠美は目を細めて、窓の中を窺おうとしたが、一瞬しか見えなかったようだ。

「もしかして、そうかもっ。
 やだっ。
 なにやってたのよ、あんたっ」

 ええーっ?

「だって、今気がついたので。
 外じゃなくて、中のテーブルにいたんじゃないですか?
 寒いから」

「なんで気づかないのようっ」

「瑠美さんも気づかなかったですよね」

「なにこの子、生意気っ」
と瑠美は万千湖の頭をぽこぽこ殴るような仕草をする。

 ……おかしいな。
 プロデューサー兼マネージャーの黒岩さんを近寄り難い芸能界の人って言うのに。

 一応、元アイドルな私は、めっちゃ雑に扱われてるんですけど~。

 瑠美にそう訴えていたら、
「いや、だって、万千湖だから」
という理不尽な答えが返ってきたことだろうが。

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