60 / 125
ささやかなる弁当
出世払いはっ!?
しおりを挟む「……そう。
あんたアイドルだったの。
黒岩さんは芸能界の人だったのね。
ヤクザの若頭か、闇のブローカーかと思った」
だったら、黒岩さんが上司の私はヤクザの鉄砲玉か、悪の組織の人になってしまいますが……。
そこで、瑠美は、はっ、としたように言う。
「待ってっ。
あんた、アイドルだったんなら、もう出世したあとじゃんっ」
出世払いするんでしょ、おごりなさいよっ、と言い出す。
「あの~、おごるのはいいんですけど。
そんな稼いでたわけではないですよ。
我々は商店街のマスコットキャラ的なものでしたし」
「なんだ、着ぐるみ入ってたの?」
「いや、着ぐるみじゃないんですけど……」
「そうよね。
あんた、着ぐるみ入ってたら、あっ、とかってつまづいて、着ぐるみの頭のふっとばしそうだもんね」
それ、子どもたちが阿鼻叫喚の騒ぎになりますよ……。
「でもそうかー。
あんた、アイドルなのかー。
なんかすごい人のサインとかないの?」
もらって来てよ、黙っててあげるから、と言われる。
「……なんかすごい人って誰なんですか?」
「わかんないけど。
何処かでなにかに自慢できそうな誰かよ」
なんですか、そのふわっとした話、と思ったとき、黒岩が柱の陰からこちらを見ているのに気がついた。
万千湖は、
「もうバレました。
大丈夫そうです」
と目で呼びかける。
「そうか、わかった」
と黒岩は視線で返してきた。
柱の陰から出て、瑠美に頭を下げ、行ってしまう。
「やだーっ。
ほんと格好いい、黒岩さんっ。
あ~、でも、芸能関係の人なのか。
近寄り難いわよね~」
と瑠美が騒ぐその横で、万千湖は第一駐車場を見ていた。
「あの~、瑠美さん。
今、レジを出て、駐車場に歩いてった人、俳優みたいなすごいイケメンだったんですけど。
もしかして、あの人ってことはないですよね? 瑠美さんが探してるイケメン」
ええっ? と瑠美は振り返る。
「今、出てったあの車です」
と水色の車を指さすと、瑠美は目を細めて、窓の中を窺おうとしたが、一瞬しか見えなかったようだ。
「もしかして、そうかもっ。
やだっ。
なにやってたのよ、あんたっ」
ええーっ?
「だって、今気がついたので。
外じゃなくて、中のテーブルにいたんじゃないですか?
寒いから」
「なんで気づかないのようっ」
「瑠美さんも気づかなかったですよね」
「なにこの子、生意気っ」
と瑠美は万千湖の頭をぽこぽこ殴るような仕草をする。
……おかしいな。
プロデューサー兼マネージャーの黒岩さんを近寄り難い芸能界の人って言うのに。
一応、元アイドルな私は、めっちゃ雑に扱われてるんですけど~。
瑠美にそう訴えていたら、
「いや、だって、万千湖だから」
という理不尽な答えが返ってきたことだろうが。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
114
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる