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ささやかなる弁当

100均では、ぱあっと

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 駿佑様と呼びそうな勢いで懐かれている……。

 今ならお礼になんでもしてくれそうな勢いだ、と思いながら、駿佑はハンドルを握ったまま万千湖を見下ろしていた。

 ……なんでも。

 いや、こいつがしてくれるなんでもって、たぶん、冷凍食品ばかりの弁当に、卵焼き以外の手作りのなにかが入るとか、その程度だよな。

 忙しい中、せっせと詰めてくれるだけで、俺は充分だし、と思う駿佑に万千湖は言った。

「課長、ご飯おごらせてくれないのなら、100均に行きましょうっ。
 好きなものをカゴにお入れくださいっ。

 何個でも買いますよっ」

 わかったわかった、と言って、とりあえず、近くのファミレスで食べてから、100均に連れて行った。



「これから借金生活がはじまりますが、せめて100均では、ぱあっと行きたいかなと思いますっ」

 万千湖は100均でカゴを手にそう宣言する。

 駿佑がどうしてもおごらせなかったので、なんとしても、100均でなにか買ってあげよう、と思っているようだった。

「まあそうだな。
 1800万円に追加で結構かかることだし」

 その分もとりあえず、駿佑が立て替えてくれることにしていた。

「現金で払わずに、ローンの方がいろいろ控除受けられるからいいって話もありますけど」
と万千湖は言うが、

「……うちの場合、銀行とかに説明するのがややこしいだろうが」
と駿佑は言った。

 一緒に家を建てるが。

 結婚するわけでもなく、籍を入れないだけの事実婚、というわけでもない。

 たまに一緒に出かけたり、お弁当を作ってもらったりするだけの間柄。

 職場は一緒だが、部署も違うし、直属の上司というわけでもない。

「一体、なんなんですか……」
と言われそうな関係だ。

 まあ、すでに住宅メーカーの人たちが、なんなんですかと思ってそうだけどな……。

 清水も清水の上司たちも、自分たちに結婚の予定がないことはもう知っているのだが。

 そのわりには、みんな、いつもニコニコしていて、その辺の人間関係には突っ込んでこない。

 駿佑も万千湖も不思議に思っていたが。

 実は、清水たちは二人の様子を見て、

 でも、なんだかんだで結婚するんだろうな、この二人、と思っているだけだったのだが、二人とも気づいてはいなかった。

 シックな収納ボックスの前に立ち、万千湖が呟く。

「こういうのって、全部そろえたらいい感じになるんだろうな~、と思うんですけど。

 いっぺんに買うのはちょっと抵抗があって。

 いつも、2、3個そろえたところで挫折するんですよね~」

 次買おうと思うとき、もうそのシリーズなかったりするし、と言う万千湖に、
「100均だろ。
 ここにあるの、全部買ってやるよ」
と言って、駿佑はカゴにそれらを入れようとした。

「待ってください!」
と万千湖が腕をつかんで止める。

「それ、1個500円ですよっ!」

「いや、だから、500円だろっ?」

「課長っ。
 100均での500円は、普通の店で使う1万円と同じですよっ!」
とわかるようなわからないようなことを言う万千湖に止められた。


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