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樹海に沈む死体
ショック死するかと思った
しおりを挟む部屋に戻った晴比古は、ついてきた亮灯を振り返り、
「さて、そろそろ種明かしをしてもらおうか」
と言った。
亮灯が笑う。
「先生、さて、だなんて、まるで名探偵が口上を述べる前みたいですね」
お前な、と思っていると、
「私と志貴がグルだと思った理由はわかりました。
でも、あれだけでは、ちょっと根拠が薄いような気がしてるんですが」
と言い出した。
「……『私たち』って言ってるんだよ、お前」
と言うと、えっ? と言う。
「お前は出会った最初から、志貴と自分のことを私たちって一纏めに語ってるんだよ。
完全に仲間か身内をかばう感じで」
「あ~、そういうとこは意外と気づかないですね。
なるほど、さすが」
いや、さすがじゃない、と思っていた。
言ったのが亮灯で、相手が志貴だったから、気になっただけだ。
その推理は、ただの嫉妬の副産物だ。
「陸もグルだって思ったのはなんでですか?」
「そういや、陸は何処行った?」
来いと言っておいたのに、と言うと、
「逃げたのかもしれませんね」
と後ろを振り返りながら、亮灯は言う。
「あっちは犯罪者ですから」
「……止めろよ」
「私も犯罪者予備軍なので、人を咎めたりとかしづらいんですよね~」
晴比古は溜息をついて言う。
「犯罪者だの、犯罪者予備軍だの。
そういや、お前らの手を握ってないような。
いや、握ったな」
「握ったんじゃなくて、私から先生の手に触れたんですよ、此処の食堂で。
そしたら、先生が逃げました。
そうするとわかっていたからです。
先生、意外とシャイだから。
でも、それで、先生の頭には、私の手には触れたけど、なにも見えなかった、と刷り込まれるはずですから。
まあ、まだ、なんにも犯罪自体は犯してないので、どのみち、なにも見えないとは思いますが」
「ろくなもんじゃないな、お前は。
その調子で志貴も手玉に取ったのか」
「志貴は手玉に取ったんじゃありません。
ただ好きなんです」
俺を殺す気か、と思った。
しれっと言った亮灯の言葉に、ショック死するかと思った。
いや、わかっていたことなのだが、改めて言われると、心臓が痛くなる。
「まあ、今は、好きかなって思うけど。
好きとか嫌いとか、考える暇もなかったです。
最初に会ったとき、志貴はまだ警官で。
雨の中、樹海の事件現場に立つ私を見つけた。
もう現場検証も終わったそこを見回りに来ていた警官だったんです。
血まみれのままうろついていた私は、既に生きていないと思われていた被害者家族の一人だった。
だから、志貴は幽霊を見たと言ったんでしょう。
私は警察には名乗り出ず、自ら犯人を探して殺そうと思った。
私の家族を殺した犯人を。
だから、志貴に言ったんです。
『今見たものは、決して言わないで――』
って」
亮灯は当時を思い出すように、ひとつ大きく息を吐いて黙った。
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