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新しい妃
皇太后からの忠告
しおりを挟む「どうしたのです、苑楊。
最愛の妻の許に渡ろうというのに、そんな深い溜息をついて」
皇太后のご機嫌伺いに来ていた苑楊は、皇太后に笑いながらそう言われる。
いや、ご機嫌伺わなくとも、最近は父がずっといるから、機嫌はいいのだが。
「はあ。
別に最愛の妻ではないですが……」
最高位の妻なだけで――。
「まあ、皇后という地位も安泰ではないですからね。
皇后はまったく知らない土地から来て、立場も不安定。
気丈なように見えても、日々、不安なこともあるでしょう。
優しくしておやり」
そこはその通りだと思うので、はい、と素直に頷いた。
「ほんとうに、いつ、ユンのような女が現れるともしれませんからね」
「ユンとは?」
「陛下のご寵愛をほしいままにしていた女よ」
「そのような妃がおられましたか?
父の後宮にいたのは、美しい方ばかりでしたが。
ちょっと記憶にないのですが」
皇太后は当時を思い出したかのように機嫌悪くいう。
「ユンと私は後宮に入る前から仲がよかったの。
私が先に後宮に入り、後からユンがやってきた――。
……ユンは私が変貌したと思って、ここを恐ろしいところだと思っているのよ。
変わったのは私じゃないわ。
陛下の愛よ。
なにもかも、陛下があなたに夢中になったからじゃないのっ」
と皇太后は今、ここにはいないユンという妃に向かって、怒り出す。
「でもまあ、陛下は気まぐれ。
結局は、私たちを捨てて、蛮族の女の許に転がり込んでしまったのだけれど」
それで結局、ユン姫とは和解したのだと言う。
「皇帝からの寵愛なんて儚いものよ。
お前は皇后をせいぜい大事にしておやり」
そう言った皇太后の目に、戻って来た父の姿が入ったようだ。
「あら、お帰りなさい」
といそいそと行きかけたが、振り向いて言う。
「そうだわ。
洋蘭に褒美を。
あの化粧水をつけると、ほんとうに肌が吸い付くようにしっとりとして、煌めくの。
洋蘭にもつけるように言ってちょうだい。
あの子は自分のことには無頓着だから。
ああ、それから、全身につけたいから、今度、大量に持ってきてちょうだいと言っておいて」
はあ……と美容には特に興味ないので、適当な返事をしたが、洋蘭を誉めてもらってちょっと嬉しかった。
帰り際に父に訊く。
「父上、ユン姫を覚えておいでですか?」
「ユン?
誰だったかな?」
父はいろいろと思い出しているようだ。
いや、そこで、いろいろ思い出す顔をするのはまずいのでは、
と思ったが、皇太后は、機嫌良く侍女たちにお茶の指示をしていて、こちらの話を聞いてはいなかった。
「父上の後宮にいらっしゃったようなのですが」
「いや、ユン姫とかいう姫はいなかったと思うが。
まさか、私も知らぬ姫が後宮にまだいたのかっ?
後宮は広いからなっ」
なんというもったいないことをっ、と過去のことで嘆きはじめる。
「いや、もういいですから。
ありがとうございました……」
と言って、苑楊はその場を去った。
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