仏眼探偵II ~幽霊タクシー~

菱沼あゆ

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幽霊タクシー

さすが超イケメンっすねー

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 西島俊哉にしじま としやはその男をぼんやり見ていた。

 なんかすげえ、と思いながら。

 俊哉くん、語彙が少ないねー、とよく女の子に笑われていたが、今はこの言葉しかねえだろう、と思っていた。

 なんかすげえ。
 すげえ男前が居るー。

 じいちゃんのツテで、この御坂に雇ってもらった。

 力があるので、荷物を運ぶときなどには重宝されているが、
『言葉遣いには気をつけろ。
 お前、高校生か』
と言われていた。

 それでも気にせず、せっせと働いていたら、結構みんな可愛がってくれるようになったので、この宿は好きだ。

 あの、客の前じゃないとちょっと嫌味で無愛想な支配人も、たまにオヤツくれるから好きだったのに。

 その支配人が行方不明になり、血が畳に滴っていたと言う。

 手の空いている従業員から、順番に支配人の部屋の前で、警察に話を聞かれていた。

 今ならいいから行ってこい、と言われて、俊哉もその列に並んでいたのだが。

 取り調べをしている刑事たちの横に、その様子を眺めている男が居る。

 確か夕べから泊まっている客のようだが。

 こうして間近に見ると、本当にびっくりするくらいの男前だ。

 男でも、ぼうっと見惚れてしまいそうになる。

 どうも彼も刑事らしいのだが、管轄が違うということで。

 壁際から、なにも聞き逃すまいとするように刑事たちと従業員の会話を聞いている。

 そして、みんなは、そんな彼の真剣な表情を見逃すまいというように、彼の方を見ていた。

 或る意味、事件現場よりインパクトがある男だった。

 俊哉は彼から畳の上の血の痕に視線をずらし、ぼそりと呟いた。

「支配人、死んだんすかね」

 順番待ちをしている前の従業員たちが、ひっ、と怯えたように身をすくめるのが見えた。

「いやいやいや。
 早急すぎだろ、俊ちゃん」
とフロントの林さんという四十過ぎの男が言ってくる。

「そうっすよねー。
 この程度の血、ちょっと角材で殴っただけでも出ますよねー」

「えーと……」

「でも、今んとこ、それで死んだ奴、誰も居ないっすよー」

 あ、そうなの、と少し逃げ腰になりながら、林は言う。

「でも、これ、殴って飛び散った血じゃねえか。
 あんな落ち方しねえもん」

 そう呟いたとき、その『なんかすげえ男前』が振り向いた。

「えーと、君は、確か、西島俊哉くん」

「名前覚えてもらって感激っすっ」
とその男の白い手を握ると、横から林さんが、

「容疑者だから。
 僕ら全員容疑者だからだよっ」
と小声で言ってくる。

「容疑者ってわけじゃないですよ。
 ただ、皆さんにお話伺ってるだけですから」

 にっこりと上品にその男前は微笑む。

「刑事さん、すごいっすね。
 さっきから、女はみんなあんた見てるのに、ぜんっぜん動じてないし」

 さすが超イケメンっすねー、と俊哉は言った。

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