悪徳公主と冷徹皇帝陛下の後宮薬膳茶

菱沼あゆ

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悪徳公主を観察する離宮の人々

侍女見習い、明花の日記 その3

 

 二、三日した頃、みんなで薬草の部屋で作業していると、また湯兒ゆんじさんがやってきました。

「詳しいお話が決まったの?」
と皇后様に微笑まれ、赤くなりながら、湯兒さんは言います。

「いいえ」

 いいえ? と全員が湯兒さんを見ます。

 じゃあ、なんで来ました、と思ったからです。

 湯兒さんは言いにくそうに言います。

「……決まっているのかも知れませんが。
 真珠妃様が皇后様には、これ以上、なにもお伝えしなくていいと」

「相変わらず、やりたい放題ですね」
と元伯楽宮にいた天天様が呟いていました。

「でもあの、ひとつだけ漏れ聞いたので――。
 秦明国の公主様は、銀食器でないとお怒りになるそうです」

「格の高い銀食器でないと莫迦にされた感じがするのでしょうか?」
と言う白英様の言葉に、皇后様は、

「陶磁器も素敵なのに」
と呟かれます。

「それもあるかもしれませんが。
 いつ、何処で毒を盛られるかわからないので、銀食器でないと、というお話みたいです。

 以前、何処かの国が銀食器でない物で宴を開いたら、私を毒殺する気かと怒られたそうで。

 まあ、そのときの公主様と今回来られる公主様が同じ方かはわかりませんが」

「そうねえ。
 でもまあ、国全体がそういう考え方なのかもしれないわね。

 ただ、銀食器に反応するのはヒ素だけだし。
 ここにあるような純度の高いヒ素だったら、どのみち、反応しないんだけど」

 瓶の並んだ棚を見ながら、皇后様がおっしゃったので、湯兒さんも含め、みんな、ひっ、となりました。

「あ、あの、皇后様」

 白英様が遠慮がちに声をかけられます。

「銀食器はすべて真珠妃様に持ち去られて、今、ここにはないのですが」

 そういえば、この間の宴のときに根こそぎ持って行かれてしまいましたよね。

「返してもらえないのかしら?」
と皇后様は湯兒さんに訊いてみられましたが、湯兒さんは首を振ります。

「絶対に返さないそうです。
 そもそも、離宮の銀食器はもともとは宮殿の物だからと」

「でも、それで大国と揉めたらどうするつもりなのかしら?」

「真珠妃様はそんなことに考えが及ぶ方ではございませんし。
 誰かに注意されたら、ますます反発なさるので」
と湯兒さんは、自分のご主人様をぶった斬ります。

「状況はわかったわ。
 ありがとう、湯兒。

 早く戻らないと、真珠妃様に見つかるわよ」

 そ、そうですね、と焦ったように船着場の方を振り返る湯兒さんに、
「そうだわ。
 この焼き菓子、持っていく?」
と皇后様は綺麗な布に、さっき焼いたゴツゴツした形のクッキーを渡していらっしゃいました。

「でも、ここへ来たこと、船頭さんからバレない?」
と天天様が湯兒さんに訊くと、湯兒さんは急いで帰ろうとしながら、

「大丈夫。
 自分で小舟を漕いで来たから」
と言います。

 皇后様が、
「すごいわ。
 結構距離があるのに。

 伯楽宮をクビになったら、いつでも言って。
 雇うから」
とおっしゃいました。

 湯兒さんは、今すぐクビになりたいっ、という顔で、まだ籠に山と積まれているクッキーを見ていました。



「銀食器ねえ。
 ここにはもうないのかしら?」

 湯兒さんが帰ったあと、皇后様は白英様にそう訊かれます。

 白英様は困った顔をして、
「少なくとも私は存じ上げません。
 銀食器を返していただけるよう、陛下から真珠妃様に言っていただいてはどうでしょう?」
と言います。

「そうねえ。
 駄目そうだったら、頼んでみるわ。

 できるだけ、陛下には後宮内のゴタゴタは知られたくないのだけど」

「どうしてですか?」
と私が皇后様に訊くと、

「だって、それでもし、陛下が真珠妃様を叱ったりなさったら。
 真珠妃様、余計お怒りになって、なにかしてきそうじゃない?」
とおっしゃいます。

 確かにそうです。

「とりあえず、ここにまだ銀食器がないか探してみます」
と言う白英様に、皇后様は頷き、

「ありがとう。
 私は――

 そうね。
 翠玉様に訊いてみるわ」
とおっしゃいました。

 いや、だから、翠玉様は何処にっ!?
と全員が身を乗り出しました。



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