悪徳公主と冷徹皇帝陛下の後宮薬膳茶

菱沼あゆ

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悪徳公主を観察する離宮の人々

侍女見習い、明花の日記 その5

 

「明花、銀食器を磨くのに使うの、どれかしら?」

 外に出た皇后様が私に呼びかけてくださいましたっ。

 はいっ、と駆け出します。

「これですっ、皇后様っ」

 木の根元に生えているほうれん草のような葉っぱをとってきました。

 ソレルとか、スイバとか言う植物らしいです。

「ありがとう、明花」

 ぺこりと頭を下げて後ろに下がりました。

「陛下、この葉で銀食器の汚れが取れるんですよ。
 あと、やってみたことはないんですが。

 鏡を磨くのに昔使っていたというカタバミなんかでも綺麗になるかもしれませんね」

 ほう、そうなのか、と陛下と宰相様は感心してらっしゃいました。

 ちょっと怪しいところもある皇后様ですが、皇后様が褒められると嬉しいですっ。

 そして、その褒められる場で、わざわざ私を使ってくださって嬉しいですっ。



 次の日、天天様が宮殿に行くのに、私を連れていってくださいました。

「いい子にしてるのよ、明花。
 あと、銀食器がそろったことは内緒にしておいて。

 でないと、真珠妃様がまたなにをしてくるかわからないからね」

 そういえば、昨日、皇后様も陛下に口止めしてらっしゃいましたね。

 天天様が公主様をおもてなしするための食材の話をしに行かれている間、お友だちと遊んでいていいと言われたので、ひとり宮殿の外廊下を歩いていました。

 早くしないと、帰りの時間になってしまいます。

 そのとき、向こうから、伯楽宮のおねえさんたちがやってきました。

「あら、ちっちゃいのが島から飛び出してきてるわよ。
 誰か戻してあげて~」

「そうねえ。
 流行から遅れた島に住む子どもに、こんな華やかな場所は不似合いですものね」
とかなんとか言いながら、くすくす笑っています。

 揉め事は皇后様のように、華麗に流すのがいいのです。

 ぺこりと頭を下げて行こうとしましたが、おねえさんたちにガッと肩をつかまれてしまいました。

「生意気なのよ、あんた。
 なんで、なんにもできない子どもが皇后様の侍女見習いなのよっ」

 あれ?
 この人たち、結構賢いです。

 島に私が行くことになったとき、みんな同情したり、莫迦にしたりしましたけど。

 でも、幽閉されてても皇后様は皇后様です。

 それも、あの麗しく賢い皇后様ですよ?

 いつか真珠妃の方がここから追いやられるかもしれません。

 だから、皇后様の侍女見習いになったということは、将来、皇后様が返り咲いたときに、出世できる可能性があるということなのです。

「明花」

 突然、よく響くいい声がしました。

 向こうから陛下の一団がやってきます。

 慌てて、伯楽宮のおねえさんたちが端によけ、頭を下げました。

 私はその場でぺこりと頭を下げます。

「ちょうどよい、明花。
 これを皇后と白英に渡してくれないか」

 そう言いながら、陛下が振り向くと、陛下がゾロゾロ連れて歩いていた人たちの中から、若いお付きの人が出てきました。

 私に小さな木の箱を二つ差し出します。

「ひとつを皇后に、ひとつを白英に」
と言う陛下の言葉に、

「はい」
と受け取ると、

「箱に名前が書いてある。
 お前は読めるだろう、明花」
と陛下がおっしゃいます。

「はい」
と私は頷きました。

 えっ?
 あんた、字が読めるのっ?
という顔をおねえさんたちがしています。

 宮殿や後宮で働いている人たちでも、字が読めない人や書けない人が多いのです。

「明花は達筆だぞ。
 明花のおじいさんにずっと習っていたからな」
と背後から現れた宰相様がおっしゃいます。

 そうですか、とそそくさとおねえさんたちは逃げていきました。

 あのおねえさんたちは字を読んだり書いたりはできないみたいです。

 でも、伯楽宮で侍女としてやっていけているということは、真珠妃様の不興を買わない程度に気が利くし、綺麗だということなので、いいんじゃないでしょうか?



「帰るわよ、明花。
 どうしたの?」

 お友だちと会ったあと、合流した天天様と船着場に向かいながら、私は、ふふ、と笑います。

 陛下がわざわざ私にこの箱を託されたのは、おねえさんたちに私が何故、皇后様付きの侍女見習いになれたのかわからせるためなのでしょう。

 私を守ってくださる意味もあり。
 あのおねえさんたちに文字を学ぶ意欲も湧かせる意味もあり。

 一石二鳥です。

 陛下と皇后様は、そういうところ、ちょっと似てるかなと思うのです。

 対外的な評判が悪いところもですが。

「明花、早く帰って、森に行きましょう?
 バニラビーンズとか言うのが見つけられたら、プリンとかいう、ふるふるしたお菓子を皇后様が作ってくださるらしいわよ」
と天天様が言います。

「はいっ」

 大きな包みに入れてもらった箱を片手に、天天様と手を繋ぎ、船着場に急ぎます。

 すれ違う宮殿のお姉さんたちの装束は美しく、とてもいい匂いがしますが。

 華やかな宮殿より、今の私たちにとっては、あの打ち捨てられた離宮こそが極楽なのです。

 だから、あの伯楽宮のおねえさんたちみたいに、離宮に行きたいひとたちが現れないよう――。

「もっと皇后様の悪い噂をまいてくればよかったですっ」
と言って、天天様に、ええっ? って顔をされてしまいました。



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