悪徳公主と冷徹皇帝陛下の後宮薬膳茶

菱沼あゆ

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悪徳公主を監視する後宮の人々

湯兒の四方山話 その3

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 明花とムクロジの実を棒で採りながら、私は思っていた。

 早く離宮内に戻りたいなと。

 侍女見習いとして、宮殿に上がったとき知った。

 ここでは遠慮してると美味いものは食いっぱぐれると!

 さっきの陶磁器、なにかお菓子を作る感じだったな~。
 試食とかあまりものとかないのだろうか!

 ここには、真珠妃様どころか、陛下だってお召し上がりになれないものがきっとある!

 そんなことを考えていると、
「湯兒さん、すご~い」
と明花に感心された。

 離宮に戻りたいあまり、すごい勢いでムクロジを採っていたようだ。

「よしっ。
 カゴいっぱいになったっ!

 行こうっ、明花っ」

 明花を背負って走り出すくらいの勢いで、離宮に戻り、下女たちにカゴに入ったムクロジを渡す。

 だが、まだ厨房にいらっしゃった皇后様の前に先ほどの陶磁器はもうなく、白英様とともに、銀食器の点検をしておられた。

 ああ、と私は膝をつきそうになる。

 遅かったかっ!

「湯兒」
「はいっ」

「森に行って野苺をとってきてくれる?
 今度はひとりで」

「……はい」

 明花は残ってお手伝いするようだ。

 いいなあ、と思いながら、
「頼むわね」
と皇后様自ら渡してくださったカゴを手にする。

 はあ、と外に出てから、ハッとした。

 まさか、私を追い払ったあと、みんなで美味しいものをっ、と慌てて振り返ったが。

 ……まあ、ここでそれはないか、と思う。

 ここにいるのは、そんな人々ではない。

 明るい外から離宮の中はよく見えないが、そんな不思議な信頼感で満たされながら、森の奥に向かい、歩いていった。

 すると、目つきの鋭い武官のような格好をした若い男が現れた。

 鼻筋の通ったいい顔をしている。

 でも……

 この島に男の人はいないのでは?
いぶかしんでいると、

「伯楽宮の侍女よ、これを」
と取っ手のついた三段になっている木の弁当箱のようなものを渡された。

 後ろを振り返り、男は言ってくる。

「あの白い仏塔の四隅にある祠のひとつ。
 奥の左側の祠の後ろ。
 石畳を外して入れ」

 はあ、とそれを受け取るや否や、男の姿は消えていた。

 ……何者。

 髪も瞳も黒かったが、ちょっと西洋風の顔立ちにも見えた。

 皇后様の間者かな?
と思いながら、言われた通りに進む。

 一応、仏塔の周りをぐるぐる回って礼拝してから、動く石畳を探し、開けてみた。

 ……灯りがない。

 暗いんだけど、と思ったが。

 ちょうど今の太陽の位置がいいのか。

 かなり奥まで日が差し込んでいる。

 ひんやりした石壁に手を這わせながら、おそるおそる進んでいった。

 仄かな香の香りがしている。

 先の方に灯りが見えてきたと思ったら。

 突き当たりになっている広い場所。
 格子の向こうで翠玉様が読書をされていた。

「翠玉様っ」

 あら、と翠玉様が振り返る。

「湯兒なの? 大きくなったわね」

 いやまあ、翠玉様が消える前から、しばらくお会いしてなかったですけど。
 そんなにガンガン大きくなったりはしないですよ、もう。

 特に天天と比べたら、と照れながら、
「どうぞ」
と弁当箱を差し出すと、それを受け取りながら、翠玉様は静かに言われた。

「ありがとう。
 ……なにも聞かないのね」

「はあ、まあ、いろいろありそうだな。
 余計な首突っ込んだら、真珠妃様か皇后様に殺されそうだな。

 でも、私をここに来させたということは、真珠妃様にさりげなく翠玉様のご無事を知らせろということかな、とかは思ってるんですけどね」
と素直に胸の内を明かすと、翠玉は笑っておっしゃる。

「あなたが私と真珠妃のことを知っているから、皇后様はここに来させたのね。

 ありがとう、ここは快適よ。
 こんなにゆっくりできたのは初めて。

 ここでは後宮のいさかいも政治的闘争もなにも関係ないから」

 それに、と悪戯っぽく笑って翠玉様はおっしゃる。

「よく色男の皇后様の手の者が差し入れに来てくれるから眼福だわ」

「私も今、その方見ました」

 二人目を合わせ、笑ってしまった。




 外に出て、森に帰っても、もう誰もいなかった。

 もう一回お会いしたかった、あの間者の人っ、と思いながら、野苺を摘み、そのカゴを手に離宮に戻る。

 みんな外に出て、離宮を飾るための草花を摘んでいた。

 ああ、もう美味しいものとかなさそうだ、と思ったのだが、皇后様が立ち上がりおっしゃった。

「お疲れ様、湯兒。
 天天たちがあなたの分のおやつの焼き菓子、残してくれてるわよ」

「えっ?」

「ほら、早く厨房行って食べてきなさいよ。
 明花が食べちゃうわよっ」
と天天が照れながら言うので、感激して抱きついてしまった。

「ちょっとなにっ!?」
と摘んだ花を手に天天が逃げかける。

「……いやちょっと。
 伯楽宮ではないじゃない、こういうの。

 あ~っ。
 ここの子になりたい~っ」

「いや、結構よ」

「なんであんたが断るのよっ」

 私は皇后様に頼んでるのよっ、と天天と揉めるのを皇后様は楽しそうに見ていらっしゃる。

 そんなこんなで準備に駆け回っているうちに、日も落ちてきたようだった。

 ――さあっ。
 いよいよ、秦明国の公主様のご到着だっ!



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