33 / 40
悪徳公主を監視する後宮の人々
湯兒の四方山話 その6
「ここは……すごいわね。
いろんな植物が生えてる」
灼永様は植物に詳しいらしく、森の生態系に興味津々のようだった。
ちなみに、我が主人(?)真珠妃様は、自分に近寄ってくる虫にしか興味がない。
「やだっ、なんか変な虫が降ってきたっ」
「真珠妃……。
ここはこのなんとかいう草を皇后が植えているから、よそより虫は少ないのだぞ」
と陛下が後ろから言っていたが、真珠妃はまるで踊りを踊っているかのように、ずっと手を動かしていた。
「灼永様、そちら、足元にあるのが、カレープラントです。
葉からカレーの香りがするんですよ」
皇后様が黄色い丸い花のようなものがてっぺんに咲いている細長い草を指差された。
灼永様がしゃがみ、その葉の香りを嗅いでみておられる。
「ほんとだわ。
カレーに使うスパイスのような香りがする」
「カレーお好きですか?」
「ええ。
母の国でもよく作るから」
「じゃあ、朝、カレーにしましょうか?」
「ありがとうございます」
と仲良さげな二人を、真珠妃は、ふん、と冷ややかに見ている。
「真珠妃様、カレーってなんですか?」
と私が訊くと、
「あなたそんなことも知らないの?
黄色い辛い食べ物よ。
私は嫌い」
と言う。
「そうなんですねー。
博学ですね、真珠妃様」
おべんちゃらでもなく、素直に褒めた。
すると、真珠妃の口の端が嬉しそうに上がる。
だが、すぐに元に戻り、
「あら、そんなこと知ってて当然でしょっ」
とツンとした感じに答えてきた。
環玉様と目を合わせ、ちょっと笑ってしまう。
そのまま蝋燭の灯りを頼りに、森の奥に進むと、少し霧が出てきた。
湿った木々の向こうにそびえる白い仏塔が幻想的だ。
皇后様は仏塔を見上げながら、厳かに口を開かれた。
「ここでは、こんな霧の晩、よく神隠しに遭うようなのですが――」
この時点で、まず、突っ込みたかった。
この間まで、無人島だったこの離島で、誰が消え。
そして、そのことを誰が知っているというのか。
だが、突っ込むのも怖いので黙っていた。
ここは皇后様の支配する島。
皇帝陛下だって、ここではただの客人だ。
我々の命はこの美貌の皇后様にゆだねられている!
足を止め、皇后様は振り返られた。
「ですので、皆様、お気をつけくださいね」
その静かな言葉に緊張感が走った。
――今宵、この中の誰かが消されるっ!?
だがその緊迫した空気に気づいたらしい皇后様が微笑んで言われた。
「ああでも、神隠しに遭ったとしても、大抵、すぐに見つかるから大丈夫ですよ」
それは大丈夫なんですか……?
と全員が思ったとき、真珠妃様が叫んだ。
「私を殺す気っ!?」
まあ、あなた、真っ先にやられそうですよね、と思いながら、私は言う。
「大丈夫ですよ。
今、皇后様が、どうせ、すぐに見つかるとおっしゃったではないですか」
だが、真珠妃様は、キッとこちらを睨んで言った。
「それ、死体でじゃないのっ!?」
「……ああ。
それもありですね」
と納得して、
「湯兒~っ!」
と怒鳴られる。
そのあと、一同は霧で湿った石段を上り、仏塔の前に出た。
広い敷地聳える仏塔をみなで見上げる。
白英様が持ってこられた香を焚き、全員、仏塔を回って参拝をはじめるた
それぞれ歩幅が違うので、バラバラに回っていたのだが――。
たまたま私は見てしまった。
皇后様がみなとはぐれまいとするように、早足で回っている真珠妃様の肩をガッ、とつかんだのを。
「……真珠妃様、そんな不信心な回り方をしていると、仏罰が当たって、神隠しに遭いますよ」
と皇后様が微笑まれる。
仏罰と神隠し、関係ないですよねっ、と思っている間に、真珠妃様の背後に黒っぽい人影が現れ、真珠妃様が消えた。
ちょうど仏塔を回ってこちらに来た陛下もそれを見ていた。
だが、陛下は沈黙し、遅れてきた灼永様に、
「そういえば、この仏塔の中ですが」
と説明しはじめた。
……見ないフリしたーっ!
「じゃ、戻ってみんなで甘い物でも食べましょうか」
まだ香の香りの漂う中、回り終えた面々に、皇后様がおっしゃる。
全員、一瞬、
一人足りない。
一人足りませんよ。
一人足りないみたいなんですが……。
という顔をしたが、すぐに、
「わあ、楽しみだわ。
どんなデザートなんでしょう」
「灼永様のところでは食後にはどのような――」
とわいわい話し出し。
そのまま離宮に戻っていった。
――なにも触れないようにしよう。
明日には真珠妃様は戻ってきているはずだ。
たぶん……おそらく、
死体ではない状態で……。
そう思いながら、私もみんなとともに深い森の中を歩いて戻った。
あなたにおすすめの小説
同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました
菱沼あゆ
キャラ文芸
「同窓会っていうか、クラス会なのに、知らない人が隣にいる……」
クラス会に参加しためぐるは、隣に座ったイケメンにまったく覚えがなく、動揺していた。
だが、みんなは彼と楽しそうに話している。
いや、この人、誰なんですか――っ!?
スランプ中の天才棋士VS元天才パティシエール。
「へえー、同窓会で再会したのがはじまりなの?」
「いや、そこで、初めて出会ったんですよ」
「同窓会なのに……?」
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在
唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話
中山加恋(20歳)
二十歳でトオルの妻になる
何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛
中山トオル(32歳)
17歳の加恋に一目ぼれ
加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する
加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる
会社では群を抜くほどの超エリートが、
愛してやまない加恋ちゃんに
振り回されたり落ち込まされたり…
そんなイケメンエリートの
ちょっと切なくて笑えるお話
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
翡翠の歌姫は 後宮で声を隠す〜特殊な眼を持つ歌姫が、2人の皇子と出会い、陰謀に巻き込まれながら王家の隠した真実に迫る
雪城 冴
キャラ文芸
◯第9回キャラ文芸大賞 奨励賞受賞
「権力に縛られずに歌いたい」
そう願う翠蓮には、自分でも知らない秘密があった。
それは、かつて王家が封じた禁忌の力――
◇
不吉を呼ぶ“特殊な眼”のせいで村を追放された少女・翠蓮(スイレン)。
生きるため、宮廷直属の音楽団の選抜試験に挑むことになる。
だが宮廷でもその眼は忌み嫌われ、早速いじめと妨害の標的に。
そんな翠蓮を救ったのは、
危険な気配をまとう皇子と、天女のように美しいもう一人の皇子だった。
しかしその出会いをきっかけに、
彼女は皇位争いと後宮の陰謀に巻き込まれていく。
歌声が運命を動かすとき、
少女は宮廷の闇と、身分違いの恋に立ち向かう。
母を亡くし、父もいない愛蘭は、伯爵家を追放され、路頭で死そうになるが、皇都で後宮画家になり、イケメン上司原水と出会い、溺愛される!
山田 バルス
キャラ文芸
愛蘭が二十歳の誕生日を迎えた初春の日、港湾都市・緑港には重たい雲が垂れこめていた。
本来なら祝われるはずのその日、彼女は緑港伯爵家の大広間にひとり立たされていた。
正面には叔父、その隣には従姉の麗香、そして――昨日まで婚約者だった沈琳道。
「どうして……わたしが家をでないといけないの?」
問いかけても、答えは返らない。
沈琳道は視線を逸らし、「麗香を選んだ」とだけ告げた。
麗香は勝者のように微笑み、愛蘭が五年間フラン王国に渡っていたことを責め立てる。
「あなたの後ろ盾だったおじい様も亡くなった。
フラン人とのハーフであるあなたが、この家にいる理由はもうないわ」
叔父は淡々と命じた。
「今日限りで屋敷を出て、街からも去りなさい」
愛蘭に許されたのは、小さな荷物袋ひとつだけ。
怒鳴ることも泣くこともなく、彼女は静かに頭を下げた。
屋敷の門を出た瞬間、冷たい雨が降り始めた。
それはまるで、彼女の代わりに空が泣いているようだった。
――これで、この街での暮らしは終わり。
市場の喧騒も、港の鐘の音も、すべてが遠ざかる。
愛蘭が向かう先は帝都だった。
祖父が遺した言葉だけを胸に刻む。
『何かあったら、顔中蓮を頼りなさい』
後ろは振り返らなかった。
戻れる場所は、もうないと知っていたから。
誕生日に家を追われるという皮肉な運命の中で、
愛蘭はまだ知らない。
この日が――
一人の女性が「家族」を失い、
一人の女性絵師が生まれる、始まりになることを。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。