悪徳公主と冷徹皇帝陛下の後宮薬膳茶

菱沼あゆ

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悪徳公主と皇帝陛下

皇帝陛下の囁き その2

 
 皇后の国から大使がやってきた。

 仕方がないので、皇后を宮殿に迎え、玉座の隣に持ってきた椅子に座らせる。

 急拵えだったので、先帝の使っていた椅子しかなく、皇后の方が龍が彫られた豪奢な金の椅子になってしまった。

 ちなみに、先帝の椅子を何故使っていなかったかと言うと、先帝が自分以外の者が皇帝となってこの椅子に座ることがないようにと、座ると毒針が飛び出して死ぬ仕掛けになっていたからだ。

 先帝が解除の仕方を教えることなく死んでしまったので、物騒な椅子として、物置に退けられていた。

 皇后が、
「なんだ、これなら解除できますよ」
と言うので、やらせてみた。

 誰も怖がって座らぬその椅子に皇后があっさり座ってみせたので、その度胸を買って、
「……その椅子はお前にやろう」
と言ったのだが。

 こうして、自分の椅子と並べて見ると、明らかに皇后の座る椅子の方が格が高い感じで。

 大使の目には完全に尻に敷かれた夫に見えたことだろう。

「はるばるご苦労でしたね、宗因そういん
と言う皇后を、この国では偉そうだな、という目で見ながら、宗因は、

 ……はい、と言う。

 実のところ、まったくいい扱いはしていないのだが、大使の目にはそのように見えていなかったので、不思議そうだった。

 評判の悪い姫をやったのに何故? と思っているようだった。

 確かに故国では黒髪黒目の忌み子かもしれないし。

 かなり凶悪な言動をしていたかもしれないが。

 差し引いてあまりあるだけの教養と美貌がある。

 と、私は思っている。

 個人的な見解だが……。

 こちらとしては、むしろ、何故、そんなひどい扱いをしていたのか訊いてみたい、と思っていた。




 そのあと、酒宴の席に移動し、見目麗しい女たちが柔らかな色の布を振り回し、踊り始めると、宗因は目を細めてそれを眺めていた。

 酒もずいぶん進み、機嫌もいいようだった。

「宗因」
と皇后が話しかける。

「あなたは相変わらずなようですね」

 宗因は鼻で笑うように答えた。

「私の性根は変わりませんから、皇后様」

 皇后は微笑んだまま言う。

「……性根は腐っていても、あなたは国の役に立つ人。
 そう思ったから生かしているのです。

 今まで通り頼みますよ」

 ひっ、と宗因が息を呑むのが見えた。

 皇后が微笑み、宗因に話しかけているので、離れた席の者たちは、
「国を懐かしんで話しておられるのだろう」
「こんな遠い小国に嫁がされて、お可哀想に皇后様」
とみな同情しつつ眺めているようだったが。

 ……いや、間近で聞いてみろ。
 なにも同情しないし、ほのぼのしないからっ。

 近くにいる秀悦ははなから人の話など聞いていないし。

 宰相は聞かぬフリをして、宗因の配下の者と談笑している。

 震え上がっているのは私だけではないかっ。

 皇后は立ち上がり、他の者たちをねぎらいに行った。

 わざわざ皇后が行って話しかけたので、みな舞い上がり、恐縮している。

 それを眺めていると、同じようにそちらを眺めながら、宗因が小声で言ってきた。

「陛下には同情いたします。
 あのような姫――

 悪徳公主を差し上げてしまって」

 あのようなとは、どのような……。

 否定したかったが、つづきが気になり、黙って聞いてしまう。

「あの女は自分の目的のためなら、どんな手段をも使う女です。
 敵対していた腹違いの兄の一人を色香で惑わし――」

「いや、それはないだろう」
と即座に否定してしまう。

「陛下、あなたはあの女に騙されておいでなのです」

「いや、違う」

「陛下」

「色香はない」

 色香はない。
 もう一度、真顔で繰り返した。

 何故そこを強く言うのですか、と聞かぬフリをしていた宰相までこちらを振り返る。

「きっとなんらかの脅しにより、相手を服従させていたのであろう」
と言って、

 陛下、普段、どんな目に遭っておられるのですか……?
という目で宗因に見られてしまう。

 皇后が、こちらに戻って来た。

「宗因。
 かなり酒が進んだようですね。

 呑み過ぎに効くお茶を用意しましょう」

「結構です」

 皇后が言い終わらないうちに宗因は断った。

「この国には珍しい薬草がたくさんあるのですよ」
「結構です」

 今度は、完全に遮る形で宗因は言う。
 もう無礼とか気にしていられないという感じだった。




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