異世界でやたら長い料理名の店を作ってみました

菱沼あゆ

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車ごと異世界転移していました

料理名が短過ぎても気になる……

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「食べ過ぎたな」
「そうですね」

 食事を終え、満足してテオと笑い合っていると、皿を下げに来たクリスティアが訊いてきた。

「デザートはいかがですか?
 本日のオススメは『魔王様のタルトタタン』です」

「……急に名前、短くなったが。
 長いときより気になるぞ。

 魔王が入ってんのか?
 魔王が作ってんのか?
 それとも、魔王がなにか採ってきてくれたのか?」
と言いながら、アーレクは、そのどれも嫌だな、と思っている自分に気がついた。

 アーレクの頭の中では、美しく強大な力を持つ魔王がクリスティアにベタ惚れで、自ら料理を作ったり、素晴らしい食材をせっせと運んできたりしていた。

 クリスティアは微笑み、そんな魔王を見守っている。

 現実のクリスティアはその言葉を聞き、
「あー、魔王様が作ってくれたら、レンチンより簡単そうですよねー」
と言い出す。

「今度、魔王様に頼んでみますね」

「いや、頼みに行くなっ」

 っていうか、ほんとうに魔王様と知り合いなのかっ、とアーレクは思った。



 結局、頼んでしまったタルトタタンには、魔王は入っておらず、魔王の森付近でこの国の王子が採ってきてくれたというリンゴが入っていた。

「いや、王子の名前を入れてやれっ。
 っていうか、王子も常連客なのかっ」
と言いながらも、テオと二人、タルトタタンを味わう。

 酸味が強いリンゴに、『可愛いうさぎが住み着いている家のおじさんが絞った牛の乳』を使って、子リスがたまに訪れるおうちのおばさんが朝作ってくれたというバターがよく染みていた。

 王子が持ってきてくれた異国の酒というのも効いている。

「……王子、大活躍じゃないか。
 名前に入れてやれ」

 『魔王様のタルトタタン』は、シナモンやキャラメリゼのほろ苦さとのバランスもよく、アーレクたちは大満足した。

 ……だから、また来たいと思っても、それは料理のせいで。

 クリスティアに会いたいからとかでは、決してない、とアーレクは心の中で言い訳をする。


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