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王子がケチをつけにやって来ました
婚約破棄された理由
しおりを挟む夕方より少し前、アリスンが休憩しに庭に出ると、魔王も出てきた。
そうだ、と思ったアリスンは厨房に行き、ふたつのグラスに葡萄酒入れてもらい、持ってくる。
「魔王様、お酒はいかがですか?」
とグラスを渡すと、
「……ありがとう」
と一口呑んで魔王は言ってきた。
「久しぶりだ。
こうして酒を呑んだりするのは」
そういえば、長く食事もしていない、と魔王は言う。
「まあ、今まで食事もなさらずに、なにをしてらしたんですか?」
アリスンがそう問うと、魔王は半分ほどになったワインを見つめ、
「……ぼーっとしてたな」
と言う。
「こんなことを言っては失礼なんですが。
予想通りですわ」
とアリスンは言った。
「もしや、何百年も、ぼーっとしてらしたんですか?」
「そうだな。
なんだかひどく疲れていて……。
それで、ぼんやりしていたのだ」
そう言う魔王に、わかります、とアリスンは頷いた。
「わかりますわ、そういう感じ。
私はなにか大きなイベントを成しとげたあとに、そうなるんです。
魂が抜けたように、ぼんやりしてしまうんですの」
「大きなイベントとはなんだ?」
と魔王が問うてくる。
「学校の試験とか、舞踏会とか。
王子の許嫁ともなりますと、そこそこの順位や見てくれを保たねばならないので、大変ですの」
「やりすぎなんですよ、お嬢は。
試験の順位で王子を抜く必要はなかったんじゃないですかね?」
と言う声がした。
振り返ると、買い出しに言っていたノアが村の娘たちと戻ってきたところだった。
なんだかんだで、こちらに来てからの方がノアも楽しそうだ。
ここではタイトなスケジュールに縛られることもなく。
空気は美味しく、食材はなにもかも新鮮で。
素朴で愛らしい村娘たちにいつも囲まれている。
「あなたはなんでもやりすぎなんですよ。
すべて王子の上に行ってどうするんですか。
なんだかんだで我慢の限界だったんじゃないですかね? 王子も」
……うーむ。
今は満たされているはずなのに、毒舌はやまないようだ。
別に街でのストレスにより、毒舌を吐いていたわけではなかったようだ……、とアリスンは思う。
「ねえ」
とアリスンは、そのまま娘たちと行こうとするノアを呼び止めた。
「それが私が婚約破棄された理由なの?」
今更どうでもいいのだが、ちょっと気になり、そう訊いてみた。
「そんなことで王子が婚約破棄するとお思いですか?
さすがの王子もそこまでの莫迦ではないですよ」
と言うことは、ある程度の莫迦、とは思っているわけだな、とアリスンは思う。
王子に対する毒舌もやまないようだ……と思ったとき、ノアは冷ややかにこちらを見て言ってきた。
「婚約破棄は、いろんな力関係が原因だと思いますけど。
でも、王子か破棄に踏み切った原因はそこじゃないと思いますね~。
ちなみに、あの状態なら、私でも破棄してみようかなと思いますね~」
こいつは私の従者のはずなんだが……。
その発言、一体、誰の味方なんだとアリスンは思ったが、ノアは、
「まあ、お嬢の予想より、もっとくだらない理由ですよ。
やはり、王子はちょっと甘ちゃんなのかもしれませんね」
と王子をも下げていく。
でも、毒舌ざんまいなのに、なんだかんだで面倒見がいいんだよな、とアリスンは、三人の仲で、一番しっかりしているノアを見送った。
そのとき、
「お前との婚約を破棄するなんて莫迦な奴だな」
魔王がこちらを見つめ、そんなことを言ってきた。
「私なら、しない」
その瞳に、アリスンは何故か、どきりとしてしまった。
が、魔王は言った。
「今まで許嫁として散々苦労してきたのにと、一生根に持たれ、事あるごとに攻撃してこられそうなのに、私ならしないな」
……ああ、そうですか、と思いながら、アリスンは魔王の手からグラスを取り上げる。
「はい、魔王様。
そろそろ夜の営業、はじまりますので頑張ってください~」
と言いながら、アリスンは先に食堂へと戻っていった。
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