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わたし、結婚するんでしょうか?

深い眠りの中にいた

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 深い深い眠りにつき。

 そして、ぼうっとしていた。

 疲れ果てて――。


「どうぞ、お眠りください。
 たまには、ご自分のことだけ考えて、ゆっくりと」


 そんな人々の声が、ふいに魔王の中に蘇った。

 今、アリスンの告白を聞いたせいだろうか?


「あなたが誰だかわからないよう、我々がなんとかしますから。
 人々の願いを叶えすぎて、疲れ果てたあなたに、もう誰も安易に願いをかけたりしないように」

 長い長いいくさはカミに祈ることによって終わった。

 人々の疲弊は終わったが、カミはその数十年に渡る疲弊を受け継いだ。

「ごゆっくりお眠りください。
 誰も此処に近づかぬよう。

 此処は禁断の地とします。

 あなたの姿を見て、誰も願いをかけぬよう。
 我々がなんとかします。

 あなたに迂闊うかつに人が近づけぬよう、お触れも出しましょう」

 人々は自分に魔王の扮装をさせ、近隣の村々に向かい、お触れを出した。

『禁断の森の魔王を起こしてはならぬ』と。

 ……そうだ。

 眠りについたカミというのは私のことだった、と魔王は思い出す。

 そういえば、あのとき、村人たちが言っていた。

「大魔王とかだとまた、あさはかな奴があなたにいろいろ願ってくるかもしれないので。
 モブな魔王ということにしてください」

 ……モブ、名前じゃなかったな。

 長い眠りの中、刷り込まれたその言葉だけが自分の中に残っていたようだ。

 だが、どのみち『人』が目の前に現れた瞬間、自分は、いつもの癖で訊いてしまっていたのだ。

「美しき娘よ。
 汝の願いはなんだ?」
と。

 あのときの村人たちが聞いていたら、

「ああああ~っ。
 魔王の扮装した意味ないじゃないですか~っ」
と嘆いていたことだろうが。

 彼らもいつか、アリスンの話に出てきた村長のように生まれ変わって、私の許に来てくれるやもしれぬ。

「寝すぎですよ、カミサマ。
 いい加減、我らのために働いてください」

 そう言って。

 そこでカミサマは思い出していた。

 そういえば、動き出したばかりでなんの力も使えぬ自分にアリスンが言っていた。

「それじゃ、魔王の仮装してる人と変わらないではないですか」

 ……今思えば、なんと鋭い娘だ。

 当たっていたではないかとカミサマは思う。



 意外に早くに目を覚ましてから、疲れからか、ずっと、ぼうっとしていた。

 長い長い時間、ひとりで、ぼんやりしていても平気だった。

 だが、アリスンが嵐のようにやってきて、帰ってしまったあと、森から出て、人々がいる集落まで行ってみた。

 やけに願いが叶えたくなり、人に会いたくなったのだ。

 昔からの習慣か。

 いや……、単に、ひとりきりでいた場所にいきなり現れたあの騒々しいラスボスみたいな娘の願いを叶えたくなっただけなのか。



 うーん。
 しかし、記憶が戻ったのはいいが、なんか言い出せないな、とカミサマは思っていた。

 私、実はカミサマでしたとか。

 まるで、カミサマに仕えたがっているアリスンに、私の側にいろと言っているようではないか、とカミサマは考えすぎる。



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