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そこは猫町4番地
そこは猫町4番地
しおりを挟む「で、これは結局、殺人犯の傘なんですかね?」
と言う琳の言葉に、全員が傘を見下ろした。
「そうかもしれませんね。
だったら、この傘があれば、いずれ犯人にたどり着くでしょう。
でも、なんで、殺人犯の傘が此処に……」
そう佐久間が呟く。
琳が、
「それはやっぱり、殺人犯が自分で傘持っていたくなくてすり替えたんじゃないですかね?
吉野さんみたいに」
と言うと、英春はどきりとした顔をした。
佐久間が言う。
「犯人は何処かで吉野さんの傘を見て、ちょうどいいと思って、すり替えたんでしょうね、吉野さんみたいに」
英春はさらに心臓に悪そうな顔をした。
将生が言う。
「いや、それよりも。
何処かで犯人は、この傘を見て。
すり替えて誤魔化すのにちょうどいいと気がつき。
そのせいで、殺人を犯したのかもしれないぞ」
英春の顔はもう死んでいた。
事件の担当刑事のはずの椋木が一番穏やかで、はは、と笑い、
「その辺にしてあげてください」
とみんなを諌めていた。
絵を破いただけのはずが、殺人事件の犯人にさせられかけ。
犯人でないとわかってからも、責め立てられる。
彼は二度とカッとなって罪を犯したりしないだろう、と英春の顔色を見ながら琳は思った。
「学校でみんなの前で謝罪しました。
奴は怒るでもなく、『お前、ついに俺の凄さを認めたということだな』と踏ん反り返っていました」
しばらくして、日曜に猫町3番地に来た英春はそう言った。
ほんとうにあいつとは気が合わないです。
いや、悪いとは思ってるんですけど、と言う英春に、
「それはその子の優しさなんじゃない?」
と琳は言ったが、
「いや、そんな奴じゃないです」
と言う。
どんな奴なんだ……と琳は思った。
そこに将生がやってくる。
「おう、来てたのか」
と将生は英春を見て言った。
「お前のおかげで、とは言うのもちょっとあれだが。
殺人犯、捕まったぞ」
えっ? と言う英春の前に、将生はコトリと缶コーヒーを置いた。
「持って帰れ。
この店のライバル店、猫町4番地のコーヒーだ」
「猫町4番地?」
と二人で訊き返すと、将生は向かいにできた自動販売機を親指で差した。
「雨宮がライバル視してるから、どんなもんかなと思って、一番美味そうなの買ってみたんだ」
結局、此処に来てしまったからやる、と将生は英春に言う。
「なんで猫町4番地なんですか……」
「この店のライバル店だから」
そう将生は、しれっと琳に言った。
殺人犯は、英春のおかげですぐに捕まったらしい。
英春が琳の傘と傘をすり替えるまでに通ったルートをすべて警察に言ったからだ。
「恐ろしいですね~。
この間の事件のときはちょっとあれでしたけど。
大通りに限っては、誰がいつ何処でなにをしているか。
監視カメラで大体追えてしまうのですね。
探偵いらずですね」
と琳は言う。
「なにが恐ろしい。
犯人になる予定がなければ、なにも恐ろしくないはずだろ」
英春が傘を置いた何軒かの店の監視カメラを調べることで。
背格好から犯人が簡単に絞れたのだ。
「それにしても、殺人犯の傘とすり替えられるとか、恐ろしすぎですね」
と琳は言って、将生に、
「……お前の仕込み刀の傘とすり替えられる方が恐ろしいだろうが」
と言われてしまう。
店に来ていた水宗が言った。
「でも、殺人を犯そうと思ったら、なんでも武器にできてしまうんですね」
傘でブスリとは、と言う彼に、将生が、
「あなたこそ、いつも全身凶器じゃないですか」
と言う。
「はあ、職業柄。
まあ、殺ろうと思えば、なんでも凶器になりますけどね」
バラバラとポケットから、ペンチやなにかを引っ張り出しながら水宗は言った。
「琳さーん、ジュース」
子どもたちが庭のテーブルを占拠しながら、開いている掃き出し窓の向こうから叫んでくる。
サッカー帰りのようで、泥だらけの靴で店内を汚さないように、店の外にしたのだろう。
「琳さん、この店のウワサ話聞いたよー」
と子どもたちが言ってくる。
えっ? なに?
とそれぞれがいつも頼むジュースを用意しながら、琳は訊き返した。
「この店出るんだって」
そんな子どもたちの言葉に、
「えっ? 霊っ!?」
と琳は振り返ったが、サッカーボールを手にした龍哉が笑って言う。
「いや、『いつもなにかの犯人が』――。
霊が出るより怖いよね。
僕、アイスコーヒー」
そう言い、龍哉は行ってしまった。
英春が苦笑いしている。
彼のカップのコーヒーはカラになっていた。
「あ、おかわりお願いできますか?」
と英春が琳を見上げて言う。
「はい。
どっちがいいですか? 猫町3番地?
それとも、4番地?」
琳は真顔で将生が持ってきたコーヒーを掲げてみせる。
英春と水宗が顔を見合わせ、笑っていた。
「可哀想な犯人」完
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