7 / 86
運命は植え込みに突っ込んでくる
……あの人に出会ってしまいました
しおりを挟むあのぼんやり顔で男に騙されたとか、ピンと来ないな。
そういう女性にありがちな影も色気もないし。
……どんな男に騙されたんだろうな。
そして、その男、あんなアブラカタブラで、あり・をり・はべり・いまそかりで、マハリクマハリタな……
いや、マハリクマハリタはなかったな。
それは、従姉が子どものころ、教えてくれた呪文だった――。
そんな、あり・をり・はべり・いまそかりな女を騙すとか、どんな男だ、と青葉が、ぐるぐる考えているころ。
あかりは、ぼんやり青葉の乗った車を見送りながら、つまらぬ話をしてしまったな、と思っていた。
つまらぬ物を斬ってしまった、みたいなテンションで。
余計なこと言っちゃったな~と下がりそうになる気持ちを頑張って引き上げてみる。
――今日は最近ハマってる俳優さんが出るミュージカル、見に行くしな。
よしっ。
早めにお店を閉めれるよう、いろいろ頑張っとこっとっ、とあかりは中に入っていった。
夕方、ちょっと早めにお店を閉め、あかりは友だちの孔子と出かけた。
劇場の前はもう、開場を待つ人でいっぱいだった。
「孔子、ご飯食べて来た?」
「食べてないよ。
ギリギリだったもん。
あかりは?」
「私もまだ」
「終わったら、どっかで食べて帰ろうよ」
いいねー、と話していたとき、斜め前を歩いていた人にぶつかった。
「あっ、すみませんっ」
と謝り、あかりはそちらを見る。
「あら、いいのよ。
今、気分いいから――」
見るからに有閑マダムと言った感じのその美しいご婦人は、誰とぶつかったのかに気づいて、眉をひそめる。
「……あら、一気に気分が悪くなったわ」
誰? と孔子があかりを見る。
「すみません。
お久しぶりです」
「そう久しぶりでもないじゃない。
……日向は元気?」
この間、会わせましたよね、とあかりが思っていると、
「今日の日向は元気? と訊いているのよ」
と女王様のようにあかりを見下ろし、彼女は言う。
いや、あかりの方がかなり大きいのだが。
あかりは、元気です、と言いながら、すっとスマホにある今日の日向を見せた。
彼女は『今日の日向』の可愛らしさを確認したあとで、深く頷き、
「あとで私に転送しなさい」
と言って、歩き出す。
「寿々花さん、もう入れるわよー」
と前からその友人たちが彼女に声をかけていた。
「今行くわ」
と寿々花は行ってしまった。
「そういえば、寿々花さんとこ、息子さん、まだ独身よね。
いいお話があるんだけど」
と聞こえてくる。
寿々花が遠ざかったあと、孔子が苦笑いして言ってくる。
「あー、あれがもしかして……」
「日向のおばあちゃん。
……おばあちゃんとか言うの、嫌がるんだけど」
日向がしゃべり出してからは、グランマ、と呼ばせているが。
日向が、グランマというのを聞いた来斗は、
「グランマって、何処のパン屋?」
などと言っていたが。
「日向、可愛いよね~。
あれはきっと、すごいイケメンになるわー。
将来、私が娘を産んだら、許嫁にしてね」
と孔子は笑ったあとで、前を行く寿々花の方を見、
「……でも、あの人がおばあちゃんになるのか」
と残念そうに呟く。
まあ、そう悪い人ではない……
のかもしれないが。
なんだかんだで、日向、うちで育てさせてもらってるしな。
強引に引き取られても仕方なかったのに。
でもまあ、それだと向こうにも都合悪いか。
『そういえば、寿々花さんとこ、息子さん、まだ独身よね。
いいお話があるんだけど』
という先程のご友人の言葉を思い出しながら、あかりは寿々花に少し遅れて劇場に入った。
25
あなたにおすすめの小説
Perverse second
伊吹美香
恋愛
人生、なんの不自由もなく、のらりくらりと生きてきた。
大学三年生の就活で彼女に出会うまでは。
彼女と出会って俺の人生は大きく変化していった。
彼女と結ばれた今、やっと冷静に俺の長かった六年間を振り返ることができる……。
柴垣義人×三崎結菜
ヤキモキした二人の、もう一つの物語……。
幸せのありか
神室さち
恋愛
兄の解雇に伴って、本社に呼び戻された氷川哉(ひかわさい)は兄の仕事の後始末とも言える関係企業の整理合理化を進めていた。
決定を下した日、彼のもとに行野樹理(ゆきのじゅり)と名乗る高校生の少女がやってくる。父親の会社との取引を継続してくれるようにと。
哉は、人生というゲームの余興に、一年以内に哉の提示する再建計画をやり遂げれば、以降も取引を続行することを決める。
担保として、樹理を差し出すのならと。止める両親を振りきり、樹理は彼のもとへ行くことを決意した。
とかなんとか書きつつ、幸せのありかを探すお話。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
自サイトに掲載していた作品を、閉鎖により移行。
視点がちょいちょい変わるので、タイトルに記載。
キリのいいところで切るので各話の文字数は一定ではありません。
ものすごく短いページもあります。サクサク更新する予定。
本日何話目、とかの注意は特に入りません。しおりで対応していただけるとありがたいです。
別小説「やさしいキスの見つけ方」のスピンオフとして生まれた作品ですが、メインは単独でも読めます。
直接的な表現はないので全年齢で公開します。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!
楓乃めーぷる
恋愛
見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。
秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。
呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――
地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。
ちょっとだけ三角関係もあるかも?
・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。
・毎日11時に投稿予定です。
・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。
・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。
苺の誘惑 ~御曹司副社長の甘い計略~
泉南佳那
恋愛
来栖エリカ26歳✖️芹澤宗太27歳
売れないタレントのエリカのもとに
破格のギャラの依頼が……
ちょっと怪しげな黒の高級国産車に乗せられて
ついた先は、巷で話題のニュースポット
サニーヒルズビレッジ!
そこでエリカを待ちうけていたのは
極上イケメン御曹司の副社長。
彼からの依頼はなんと『偽装恋人』!
そして、これから2カ月あまり
サニーヒルズレジデンスの彼の家で
ルームシェアをしてほしいというものだった!
一緒に暮らすうちに、エリカは本気で彼に恋をしてしまい
とうとう苦しい胸の内を告げることに……
***
ラグジュアリーな再開発都市を舞台に繰り広げられる
御曹司と売れないタレントの恋
はたして、その結末は⁉︎
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
わたしの愉快な旦那さん
川上桃園
恋愛
あまりの辛さにブラックすぎるバイトをやめた。最後塩まかれたけど気にしない。
あ、そういえばこの店入ったことなかったな、入ってみよう。
「何かお探しですか」
その店はなんでも取り扱うという。噂によると彼氏も紹介してくれるらしい。でもそんなのいらない。彼氏だったらすぐに離れてしまうかもしれないのだから。
店員のお兄さんを前にてんぱった私は。
「旦那さんが欲しいです……」
と、斜め上の回答をしてしまった。でもお兄さんは優しい。
「どんな旦那さんをお望みですか」
「え、えっと……愉快な、旦那さん?」
そしてお兄さんは自分を指差した。
「僕が、お客様のお探しの『愉快な旦那さん』ですよ」
そこから始まる恋のお話です。大学生女子と社会人男子(御曹司)。ほのぼのとした日常恋愛もの
愛してやまないこの想いを
さとう涼
恋愛
ある日、恋人でない男性から結婚を申し込まれてしまった。
「覚悟して。断られても何度でもプロポーズするよ」
その日から、わたしの毎日は甘くとろけていく。
ライティングデザイン会社勤務の平凡なOLと建設会社勤務のやり手の設計課長のあまあまなストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる