13 / 86
運命は植え込みに突っ込んでくる
お前に会いに来る言い訳を思いつかないんだが、来てしまった……
しおりを挟む夜、青葉が訪ねてきた言い訳を考えながら、あかりの店に向かうと。
あかりはカウンターの下にひそませているコンパクトなテレビでバラエティ番組を見ていた。
からんからん、と開けて入っただけなのに、あかりは顔も上げずに言う。
「最近、賞味期限が十分とか三十秒とかのスイーツ、流行ってるじゃないですか」
いや、お前は誰に向かって言ってんだ?
と思ったが、こちらを見てあかりは言った。
「木南さん、食べたことありますか?」
自分だとわかっていたようだ。
何故だ……と思ったが、そういえば、あかりのいるカウンターから駐車場が見える。
「いや、ないな」
と言いながら、青葉は、ホッとしていた。
ここに来た上手い言い訳を思いついていなかったからだ。
このまま、普通に話していれば、来た理由とか言わなくてよくなるかもしれないな、と思っていた。
「やはり、商品が話題になるって大事ですよね」
「……流行ってないのか、この店は」
まあ、ランプの店とか、ピンポイントに絞りすぎだよな、と思ったとき。
あかりが斜め後ろに吊るしてある、中世のカンテラみたいなものを見ながら呟いた。
「賞味期限10分のランプとか」
「それ、壊れてるだろ。
賞味しないし……」
そのあと、あかりと少し店の話をした。
やはり、売上は芳しくないようだった。
「店の名前、変えましょうかね?」
渋い顔であかりは言う。
「『雑貨とランプの店』とか。
まあ、実際のところ、ついでに置いてる雑貨の方がよく売れてますしね。
最近、売れた中で、一番高かったの、ランプに添えたつもりで飾ったスーツケースでしたよ」
ははは……とあかりは乾いた笑いを浮かべる。
「この間のあれか。
ランプの方がスーツケースに添えられてたわけだな」
そうなんですよ、とあかりはまた渋い顔をする。
「まあ、一応、上手くいかなかったときのことも考えて。
ネットショップの準備もしてるし。
喫茶コーナーも作れるようにしてるんですけど」
そういえば、このカウンターそれっぽいな、と思いながら青葉は言う。
「最終的に、お前の友だちとか、来斗とか、早田先生親子とかが溜まって。
カフェになってそうな気がするぞ……」
「……そうですね。
あっ、そうだっ」
とあかりがいきなり声を上げた。
「ネットショップこんな感じにしようかなと思ってるんですけど。
ちょっと見てもらえますか?
感想、お訊きしたいんですけど」
そう言いながら、ノートパソコンを開いて見せてくる。
「これ、業者に頼んだのか?
お前作ったのか?
意外にセンスいいな」
「意外ってなんですか……」
そのサイトは、くすみカラーで統一されていて。
アンティークな雰囲気もあり、よく出来ていた。
「だが、お洒落だが、大胆に商品置きすぎだぞ。
もっと、ぱっと目に入る品数増やせよ。
しかも、高い。
『まあ、綺麗ね。
こんな商品、おうちにあったらいいわねーっ。
でも、高いわねーって』
そのまま客がスルーしそうだ」
「う~ん、そうですね~。
ごちゃついたサイトって、見づらくて好きじゃないんで、こんな感じにしたんですけど。
確かに最初のページに、もう少し商品があってもいいですよね」
とあかりが身を乗り出して画面を見るので、こっちが引いてしまった。
「どうしたらいいですかね?」
とあかりがこちらを見る。
「安っぽくなくて、この店の雰囲気に合ってるお値打ち商品をひとつでも、トップページに持ってこい。
ここで買う、とっかかりになるだろ」
「そうですね。
うーん……。
仕入れ頑張りますっ」
「いいのがあったら教えてやるよ」
と言ったところで、あかりが、
「あ~、そういえば、木南さん、インテリアの輸入会社の方でしたね」
と苦笑いした。
「……忘れてたのに、相談したのか」
「いやいや。
なんかパソコンとか得意そうで、頼りになりそうだったから」
単に、サイト作るのに、頼りになりそうだからと言っただけだったのだろうが。
何故か、頭の中で、ちょっと照れたように笑いながら、あかりが、
『頼りになりそうだったから』
と言ったシーンが何度も回った。
28
あなたにおすすめの小説
地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!
楓乃めーぷる
恋愛
見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。
秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。
呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――
地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。
ちょっとだけ三角関係もあるかも?
・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。
・毎日11時に投稿予定です。
・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。
・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。
Perverse second
伊吹美香
恋愛
人生、なんの不自由もなく、のらりくらりと生きてきた。
大学三年生の就活で彼女に出会うまでは。
彼女と出会って俺の人生は大きく変化していった。
彼女と結ばれた今、やっと冷静に俺の長かった六年間を振り返ることができる……。
柴垣義人×三崎結菜
ヤキモキした二人の、もう一つの物語……。
幸せのありか
神室さち
恋愛
兄の解雇に伴って、本社に呼び戻された氷川哉(ひかわさい)は兄の仕事の後始末とも言える関係企業の整理合理化を進めていた。
決定を下した日、彼のもとに行野樹理(ゆきのじゅり)と名乗る高校生の少女がやってくる。父親の会社との取引を継続してくれるようにと。
哉は、人生というゲームの余興に、一年以内に哉の提示する再建計画をやり遂げれば、以降も取引を続行することを決める。
担保として、樹理を差し出すのならと。止める両親を振りきり、樹理は彼のもとへ行くことを決意した。
とかなんとか書きつつ、幸せのありかを探すお話。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
自サイトに掲載していた作品を、閉鎖により移行。
視点がちょいちょい変わるので、タイトルに記載。
キリのいいところで切るので各話の文字数は一定ではありません。
ものすごく短いページもあります。サクサク更新する予定。
本日何話目、とかの注意は特に入りません。しおりで対応していただけるとありがたいです。
別小説「やさしいキスの見つけ方」のスピンオフとして生まれた作品ですが、メインは単独でも読めます。
直接的な表現はないので全年齢で公開します。
苺の誘惑 ~御曹司副社長の甘い計略~
泉南佳那
恋愛
来栖エリカ26歳✖️芹澤宗太27歳
売れないタレントのエリカのもとに
破格のギャラの依頼が……
ちょっと怪しげな黒の高級国産車に乗せられて
ついた先は、巷で話題のニュースポット
サニーヒルズビレッジ!
そこでエリカを待ちうけていたのは
極上イケメン御曹司の副社長。
彼からの依頼はなんと『偽装恋人』!
そして、これから2カ月あまり
サニーヒルズレジデンスの彼の家で
ルームシェアをしてほしいというものだった!
一緒に暮らすうちに、エリカは本気で彼に恋をしてしまい
とうとう苦しい胸の内を告げることに……
***
ラグジュアリーな再開発都市を舞台に繰り広げられる
御曹司と売れないタレントの恋
はたして、その結末は⁉︎
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
わたしの愉快な旦那さん
川上桃園
恋愛
あまりの辛さにブラックすぎるバイトをやめた。最後塩まかれたけど気にしない。
あ、そういえばこの店入ったことなかったな、入ってみよう。
「何かお探しですか」
その店はなんでも取り扱うという。噂によると彼氏も紹介してくれるらしい。でもそんなのいらない。彼氏だったらすぐに離れてしまうかもしれないのだから。
店員のお兄さんを前にてんぱった私は。
「旦那さんが欲しいです……」
と、斜め上の回答をしてしまった。でもお兄さんは優しい。
「どんな旦那さんをお望みですか」
「え、えっと……愉快な、旦那さん?」
そしてお兄さんは自分を指差した。
「僕が、お客様のお探しの『愉快な旦那さん』ですよ」
そこから始まる恋のお話です。大学生女子と社会人男子(御曹司)。ほのぼのとした日常恋愛もの
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる