ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ

文字の大きさ
18 / 86
運命は植え込みに突っ込んでくる

それでどうやって恋に落ちたんだ……

しおりを挟む
 
 青葉に扉のインテリアを褒められ、あかりはちょっと嬉しくなっていた。

 昨夜、外にかけていたあのランプ。

 中に置いているときは、あの扉の側にかけている。

 ほんのりとしたランプの灯りが照らす蒼い扉を見ていると、その扉の向こうに、あの人と過ごしたあの部屋がある気がしてくる――。

 だが、何処にもつながっていない扉の向こうに、もちろん、あの人はいない。

 青葉が言った。

「その、この間言ってたお前を捨てた男だが。

 ……そもそも、どうやって出会ったんだ?」

 青葉はそんな話を振ってきたが、ほんとうは、なにか違うことを訊きたいように見えた。

 青葉はフラれるために、告白しようとしていたが。

 その告白がまず、できず。

 思わず、あかりを捨てた男のことを訊いてしまっていたのだが、あかりには、そんなことはわからない。

 どうして、私を捨てた男のことばかり気にするんですか、とあかりは思っていた。

 青葉は無意識のうちに、

 こいつに好かれる出会い方とかあったのだろうか?

 まあ、『植え込みに突っ込む』は100%不正解だろうが、
 などと考えて、うっかり、そう訊いてしまったのだが。

 そんな青葉の心理も、もちろん、あかりには伝わってはいなかった。

「どうやってって……」
とあかりは思い出す。

「道で出会ったんですよね。

 彼は真正面からやってきて。
 私が右に避けようとしたら、彼も右に。

 左に避けようとしたら、左に動いて、こう着状態に……」

「ずいぶんと愉快な男だな。
 そんなんで、どうやって、恋に落ちるんだ」

「身動きとれなくなって、見つめ合ってしまったんですよ。
 そのとき見た瞳が綺麗だったんです。

 恋に落ちて、彼がいなくなるまで、一週間くらいだった気がします」

「手の早い男だな」

「はあ、そういう風な人には見えなかったんですけどね。
 意外に情熱的でしたね」
と言うと青葉は嫌な顔をする。

 ……不思議な人だな、この人は。

 何故、今、この話を聞きたがる、と思いながら、あかりは言った。

「ロミオとジュリエットなみの恋の落ち方と破滅の速さでしたよ」

「なにいいい感じに言ってんだ。
 単に手の早い男にもてあそばれて、捨てられたってだけだろう?」

「……そうかもしれませんね」

「何故、機嫌悪くなる。
 図星だからか。

 そんな悪い男のことは、さっさと忘れるんだな」

「そうします」

 あかりは知らなかったが。

 青葉はフラれに来たはずなのに、相手の男が気に入らなくて、つい、そう言ってしまっていたのだ。

 青葉は、そのままサイトの話をして帰っていったので、結局、フラれないままだった。
 


 あかりは夕刻、支度をした。

 知り合いの仕事の関係で、例のミュージカルのいい席が四枚手に入ったと寿々花から連絡があったからだ。

 孔子こうこと行くと、劇場前で、寿々花が待っていた。

「遅いじゃない」

「いや、お店があったんで……。
 っていうか、そんなに急がなくても、指定席ですよね?」

「早く来て、劇場の雰囲気を味わいたいのよ。
 同じ空間に貴之様がいらっしゃるのよ」

 なんと尊いことでしょうっ、というように寿々花は言う。

「まあ、それはわかりますけど」
とあかりが言ったとき、駐車場から小柄なご婦人が走ってきた。

 この間の人とは違う女性だった。

「ごめんなさい、木南さん。
 遅くなっちゃって」

「いいのよ。
 この子も今来たところだし」

「あら、可愛らしいお嬢さん。
 どなた?

 あっ、もしかして、青葉さんの?」

 二人は沈黙する。

 少し迷って、寿々花は、
「今風に言うなら、青葉の元カノってやつね」
と言う。

「やだ。
 なのに、一緒に推し活してんの?」

 木南さんらしいわ、と彼女は、ほがらかに笑った。

「いいから、行きましょ。
 はじまるわよ。

 行くわよ、あかりさん」

 さっさと歩いていってしまう寿々花に、あかりたちは、寿々花の友人と目を合わせて笑ったあとで、劇場に向かって歩き出す。

 夕暮れに浮かび上がる劇場の明かりを見ながら、あかりは先ほどの青葉を思い出していた。

『ずいぶんと愉快な男だな』

 いや、それ、あなたなんですけどね。

『手の早い男だな』

 だから、それ、あなたなんですけどね。

 あのとき、妊娠がわかったあかりのもとに、寿々花に連れられ、青葉がやってきた。

『お前は誰だ――』

 そう言い、別人のように冷たい瞳で自分を見下ろした青葉の目を思い出していた。

 いかん。
 心がすさむな。

 堀様で癒されよう―― と、

「待てっ。
 お気に入りの俳優見ただけで癒されていい問題か、それっ?」
と青葉に突っ込まれそうなことを思いながら、あかりは劇場に入った。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

花も実も

白井はやて
恋愛
町で道場を営む武家の三男朝陽には最近、会うと心が暖かくなり癒される女性がいる。 跡取り問題で自宅に滞在したくない彼は癒しの彼女に会いたくて、彼女が家族と営む団子屋へ彼は足しげく熱心に通っているのだが、男と接客している様子を見ると謎の苛立ちを抱えていた。

思い出のチョコレートエッグ

ライヒェル
恋愛
失恋傷心旅行に出た花音は、思い出の地、オランダでの出会いをきっかけに、ワーキングホリデー制度を利用し、ドイツの首都、ベルリンに1年限定で住むことを決意する。 慣れない海外生活に戸惑い、異国ならではの苦労もするが、やがて、日々の生活がリズムに乗り始めたころ、とてつもなく魅力的な男性と出会う。 秘密の多い彼との恋愛、彼を取り巻く複雑な人間関係、初めて経験するセレブの世界。 主人公、花音の人生パズルが、紆余曲折を経て、ついに最後のピースがぴったりはまり完成するまでを追う、胸キュン&溺愛系ラブストーリーです。 * ドイツ在住の作者がお届けする、ヨーロッパを舞台にした、喜怒哀楽満載のラブストーリー。 * 外国での生活や、外国人との恋愛の様子をリアルに感じて、主人公の日々を間近に見ているような気分になれる内容となっています。 * 実在する場所と人物を一部モデルにした、リアリティ感の溢れる長編小説です。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

愛してやまないこの想いを

さとう涼
恋愛
ある日、恋人でない男性から結婚を申し込まれてしまった。 「覚悟して。断られても何度でもプロポーズするよ」 その日から、わたしの毎日は甘くとろけていく。 ライティングデザイン会社勤務の平凡なOLと建設会社勤務のやり手の設計課長のあまあまなストーリーです。

妖狐の嫁入り

山田あとり
恋愛
「――おまえを祓うなどできない。あきらめて、俺と生きてくれ」 稲荷神社の娘・遥香(はるか)は、妖狐の血をひくために狐憑きとさげすまれ、ひっそり生きてきた。 ある日、村八分となっている遥香を探して来たのは怨霊や魔物を祓う軍人・彰良(あきら)。 彼は陰陽師の名門・芳川家の男だった。 帝国陸軍で共に任務にあたることになった二人だったが、実は彰良にもある秘密が――。 自己評価は低いが芯に強さを秘める女が、理解者を得て才能を開花させる!   & 苦しみを抱え屈折した男が、真っ直ぐな優しさに触れ愛を知る! 明治中期風の横浜と帝都を駆ける、あやかし異能ロマンス譚です。 可愛い妖怪・豆腐小僧も戦うよ! ※この作品は、カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻
恋愛
 桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。  父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。  理由は多額の結納金を手に入れるため。  相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。  放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。  地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。  

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

処理中です...