62 / 86
ゼロどころか、マイナスからの出発
なんでも叶う魔法の呪文
しおりを挟む次の日の昼、大吾が訪ねてきた。
会議の帰りだとかで、きちんとスーツを着ていてた。
不思議なものだな、とあかりは思う。
最初の頃は、よく似てると思ってたのに。
最近、ちっとも似て見えない、と思いながら、
「なにお飲みになりますか?」
と訊くと、
「アイスコーヒー」
と言ったあとで、大吾は、
「そういえば、この店で金払ったことないな」
と言う。
……いや、だから、ここ、カフェでも喫茶店でもないんですけど。
「来斗とカンナの件だが、難航しそうだぞ」
「でしょうね」
と言いながら、アイスコーヒーを淹れ、大吾に出す。
「そこでだ。
お前、俺と結婚しないか」
「え?」
なにが何処で、どう、それでだったんですか、今――
とあかりは思う。
「来斗たちと同時に、俺たちも結婚すると言って、親を撹乱する」
なんの技ですか、それは……。
「そして、こっちが上手くいったら、来斗は兄嫁の弟。
なんとなく、家の格的に問題なくなる感じがしないか」
「あの、来斗たちで手こずるのなら、長男の結婚の方がもっと手こずると思うんですよね」
「まあ、それはさておき」
さておくんだ……と思うあかりの手を大吾は握ってくる。
「過去にこだわるより、新しい未来に向かった方が建設的だと思わないか?
最近、思うんだ。
俺はたぶん、
寿々花さんに連れられていってお前に会ったあの日、
『お前は誰だ』と言ったあの瞬間に、お前に一目惚れしてたんじゃないかって」
いや、それ、私のトラウマなんですけど……。
「俺は過去の青葉を超えてみせる。
あかり――
俺と結婚してくれ」
そのとき、あかりは気がついた。
そういえば、青葉さん、日向も作ったし、お父さんには、私を幸せにするっと言ったけど。
こんなにハッキリ、プロポーズしてくれてないな、と。
いや、そんな暇もなかったのだが……。
ということは、これが人生、初プロポーズなのか。
いや、だからって受けたりはしないのだが。
大吾はあかりの手を強く握り言う。
「心配するな。
俺は過去のお前たちの愛に打ち勝つっ」
打ち勝たないでください……。
でも、お前たちの愛か。
口に出してそう言われると、短い間だったけど、愛があったんだなーと改めて思う。
そして、すごく遠くに封じ込めていた青葉さんの笑顔が、今はすぐそこにあることを実感する。
私、なんだかんだ頑ななことを言いながらも。
もしかして、今、幸せなのだろうかな……?
とこのとき、ちょっと思った。
夜、いつものようにせっせと青葉が通ってきた。
だが、思い詰めたような顔で店内をウロウロしている。
……ウロウロしているわりには、こだわりのランプはちっとも見てくれないのですね、
と少し寂しく思いながら、あかりは、
「なにか飲まれますか?」
と訊いた。
「アイスコーヒー」
と言ったあとで、青葉は振り向き、
「そういえば、この店で金払ったことないな」
と言う。
いや、双子か……。
顔だけじゃなく、発想まで似てるのか?
と思いながら、ガラガラとカウンター下の小さな冷凍庫から氷をグラスに落としていると、
「その、動物園とか行かないか?
休みの日」
という声が聞こえてきた。
「日向とですか?」
「……ああ、そうだな。
日向もいると嬉しいな。
でも……
いや、うーん」
と青葉は悩み出してしまった。
なんだかわからないが、笑ってしまう。
「じゃあ、何人かで行きましょうか」
青葉は、えっ? と喜んだあとで、また、えっ? と驚いたように言った。
「何人かで!?」
と訊き返してくる。
「だって、木南さんは日向の相手に慣れてません。
走り出した日向、止まらないですよ。
突然、なに始めるのかわからないので、常に見張りが必要だし。
数人で行った方が」
と言うと、なるほどな……と言う。
「真希絵さんたちにもお願いして大丈夫か?」
「はい、たぶん。
あ、でも、夜の動物園の方がいいって言うかもしれませんけどね。
昼間暑いんで」
と笑ったとき、来斗からメッセージが入ってきた。
「あ、来斗からですね」
とスマホを手に取り、開けてみた。
『ごめん、ねーちゃん。
俺、ほんとに呪文を唱えるかも』
「どうかしたのか?」
と沈黙したあかりに、青葉が訊いてくる。
「ああいえ、なんでもないです。
……楽しみですね、動物園」
とあかりは笑った。
なんでも叶う魔法の呪文。
今まで唱えなかったのは、唱えた途端、なにか恐ろしいことが起こる気がしていたからだ。
なんでも叶う未来と引き換えに。
肝心なことは叶わない未来がやってくるのではないかと――。
23
あなたにおすすめの小説
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
花も実も
白井はやて
恋愛
町で道場を営む武家の三男朝陽には最近、会うと心が暖かくなり癒される女性がいる。
跡取り問題で自宅に滞在したくない彼は癒しの彼女に会いたくて、彼女が家族と営む団子屋へ彼は足しげく熱心に通っているのだが、男と接客している様子を見ると謎の苛立ちを抱えていた。
明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)
松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。
平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり……
恋愛、家族愛、友情、部活に進路……
緩やかでほんのり甘い青春模様。
*関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…)
★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。
*関連作品
『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点)
『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)
上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。
(以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)
【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
妖狐の嫁入り
山田あとり
恋愛
「――おまえを祓うなどできない。あきらめて、俺と生きてくれ」
稲荷神社の娘・遥香(はるか)は、妖狐の血をひくために狐憑きとさげすまれ、ひっそり生きてきた。
ある日、村八分となっている遥香を探して来たのは怨霊や魔物を祓う軍人・彰良(あきら)。
彼は陰陽師の名門・芳川家の男だった。
帝国陸軍で共に任務にあたることになった二人だったが、実は彰良にもある秘密が――。
自己評価は低いが芯に強さを秘める女が、理解者を得て才能を開花させる!
&
苦しみを抱え屈折した男が、真っ直ぐな優しさに触れ愛を知る!
明治中期風の横浜と帝都を駆ける、あやかし異能ロマンス譚です。
可愛い妖怪・豆腐小僧も戦うよ!
※この作品は、カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
絵麻
恋愛
桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。
父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。
理由は多額の結納金を手に入れるため。
相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。
放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。
地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。
溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!
楓乃めーぷる
恋愛
見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。
秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。
呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――
地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。
ちょっとだけ三角関係もあるかも?
・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。
・毎日11時に投稿予定です。
・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。
・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる