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蘇りの書
地下室
しおりを挟む地下に行くと、真生は辺りを見回し、
「ここは嫌だなあ」
と文句を言い出す。
「霊とか昭子さんとか出るし」
「霊と昭子は同じ扱いか」
と言うと、真生はこちらを見てなにか言おうとした。
だから、先に言ってやる。
「お前はいつの真生なんだ?」
その言葉に真生は笑い、
「そのセリフが出るってことは、わかってるんでしょ?
私は今まであなたが話していた真生よりは、少し先の真生よ」
と言う。
まったく、と溜息をついた。
「……いつから気づいてた? 俺も過去に飛んでいることに」
いつからって訊かれ方も困るんだけどね、と真生は言う。
「私もあなたもランダムに過去に飛んでは戻っているから。
このタイムスリップ現象が止まらない限り、私たちは一般の時間軸に沿って動いてはいない。
だから、それぞれの時間軸でしか語れないわね」
でも、そうねえ、と言いながら、なにか出て来ないだろうかと警戒する顔で、周囲を見たあとで、真生は言ってきた。
「私があなたも過去に飛んでるんじゃないかと気づいたのは、高坂さんが夜道で、暴漢を斬り伏せたって伝説があるけど、覚えていないと言ったときよ。
八咫さんが言うように、そんなとき、高坂さんなら、銃で撃ってるはずだしね。
それから――」
そう言いかけたが、真生は、その先を語らなかった。
何故言わないのだろう。
それはまだ、自分も知らない未来の話だからか。
いや、未来という言い方はおかしい。
『今』からすれば、なにもかもが、すでに終わってしまった出来事なのだから。
そして、何度か飛んでわかったのだが。
どうやら、自分が自分と同じ時間に存在できることはないらしく。
自分が居ない隙間を見つけ、たまたま空いているそこに身体が戻って来る、という感じのようだった。
「ねえ、斗真はなんで過去に飛ぶようになったの?」
話を切り替えるように、真生はそう訊いてきた。
「放課後、礼拝堂の外でお前があの曲を弾くのを聴いていた。
部活が早くに終わったんだ。
お前がまだ残っているのなら、一緒に帰ろうと思って」
入ってくればよかったのに、と真生は言うが、
「邪魔しちゃ悪いかと思ったんだよ。
下手なりに一生懸命弾いてるから」
と言うと、真生は、その一言はいらなくない? とふくれて見せる。
「そしたら、いきなり、礼拝堂の尖塔の辺りから三機の戦闘機が現れて。
幻覚かと思ったが、俺の上にその影が落ちて、周りの空気がひんやりとした」
そのときからだ、と斗真は言った。
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