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第三章 禁断のプロポーズ
恐ろしいくらいそっくりだ……
しおりを挟む智久の手術は三時間程で終わるようだった。
出血のわりに、傷はやはり深くはなく、手術が終わったら、普通の病室に入るということだった。
「そんなに長い入院でもないみたいだから、普通の個室でもいいんじゃないか?」
と駆けつけていた智久の父、隆二が呑気なことを言い、母、房江に怒られていた。
どのみち、普通の個室は満室だったので、特別室になったのだが。
未咲も智久も刺した人間に心当たりがないと言ったことで、警察は、社内に入っていた泥棒か産業スパイが、未咲に見咎められたと思って、刺そうとしたと思ったようだった。
未咲が智久が自分をかばって怪我したことを謝罪すると、隆二は鷹揚に笑って許してくれた。
「これで、社内の評判も上がるだろう」
と智久と同じことを言ったが、恐らく、自分に気を使わせないために言ってくれたんだろうな、と未咲は思った。
手術室の前の廊下をうろうろしていても邪魔になるので、未咲たちは、特別室で手術が終わるのを待つことにした。
智久の両親に飲み物を買ってきたり、話し相手になったりして、落ち着かない気持ちながらも、あっという間に時間が過ぎる。
智久の子供の頃のエピソードなど、あとで、からかってやろうと思うものもあったのだが。
激しい逆襲に遭いそうだから、やめておいた方がいいな、と判断する。
智久の母に会うのはこれが初めてだったが、智久に瓜二つの綺麗な人で、昔、秘書室にいたという。
隆二の方は、一、二度会った気がするのだが。
関連会社の社長なので、これもまた、普段、顔を合わせることはなかった。
隆二は、第一印象通りの穏やかな人で、社内での智久の話をすると、笑顔で、うんうん、と聞いてくれる。
仕事の電話がかかったので、隆二がいなくなると、房江が微笑んで未咲に言った。
「貴女、未咲さんっておっしゃったかしら」
「はい。
志貴島未咲と申します」
「志貴島って本名なの?」
房江は、突然、気は確かか? というようなことを言い出したが、なんとなく、意図は見えていた。
「本名ですが、元の名前は違います。
志貴島は私を育ててくれた養父母の名字です。
母は昔、うちの秘書室に」
「そうね。
よく似てるわね、あの売女に」
と房江は素敵な笑顔で言ってきた。
「でも、貴女は性格違いそう」
ありがとうございます、と言うべきところなのだろうか。
「でも、この顔の嫁は嫌ね」
「私、ただの秘書ですから」
「どうかしら」
と房江は優雅に笑っている。
……どうしよう。
この人、智久さんにそっくりだ。
智久と結婚する人間は、あの性格の人間が二人居る家に嫁ぐことになるのか、と同情する。
桜さん、頑張って……。
そのとき、ノックの音がした。
看護師が笑顔で現れて言う。
「手術終わりました。
こちらからベッドが入りますので」
そう指示され、房江とともに荷物を避けた。
一体、なにをこんなに持ってきたんだ、と思うようなボストンバッグと紙袋を見ながら、こういう家に嫁ぐのは大変そうだな、と改めて思う。
この荷物の多さに息子へのどっぷりとした愛情が現れているからだ。
房江は、紙袋を移動しながら、
「今度、智久とうちへいらっしゃい」
と言ってきた。
……行きません、と思ったが、そうも言えないので、ひきつりながらも笑顔を浮かべ、
「はい、ぜひ」
と答えていた。
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