おとぎ ~花魁候補の少女がやってきて、突然はじまる江戸ライフ~

菱沼あゆ

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祈り

浮世絵と富くじ

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 昼休み。
 渉が学校の図書室に行くと、メガネが大きな本をテーブルに広げていた。

 浮世絵の本のようだった。

「なに見てるんだ?」
と訊くと、
  
「いや、吉原の有名な花魁の中に、おとぎという名はないなと思って。
 まあ、花魁になるとき、名前は変わるんだろうが」
と言う。

 メガネもおとぎなら、吉原でもかなり上位の花魁になれると思っているようだった。

「おとぎはおとぎという名前が気に入っているようだからな。
 引込み新造だから、面倒を見てくれる姉さんとやらもいないようだし。

 自分で名前をつけられるのなら、そのまま使いそうだったが――」

 そう渉が言うと、メガネも複雑そうな顔をしていた。

 おとぎの頑張りと凄さが認められていて欲しいという思いと、花魁になって欲しくないという思い。

「そういえば、おとぎには未来が見えると言っていたが。
 吉原が火事になる未来が見えるんだそうだ」

 火事のときは吉原から出られると言っていた。

 もしや、そのとき、逃げられたのかもと思ったが。

 そんな逃げ方をして、タダで済むとも思えない。

 それより不安なことがある。

 まともな医療のない江戸では、バカみたいなことで人が死んでしまうと聞いた。

 そして、吉原は何度も、大火や地震という災害に見舞われている。

 いや……、考えすぎだ。

 おとぎは、違う名前で花魁になったのかもしれないし。

 途中でなにかの幸運にめぐまれ、花魁にならずにすんだのかもしれないし。

 あるいは、このまま、ずっとここで暮らしたということもありうる。

 そんな幸福な未来がおとぎに訪れたのだと。

 そう信じることにした。

 だが、いい未来でも悪い未来でも。

 これから先のことを知って生きていくのは嫌だろうと思い、おとぎには彼女の名が残っていないことは黙っておくことにした。
 
 


 おとぎはあの自分が現れた通りの前を通るとき、いつもチラと覗いている。

 だが、あまり近寄ることはない。

 元の世界に吸い寄せられるような気がするからだろうか――?




 その日の夜、塾から家に帰ると、滋がスマホで宝くじの当選番号を見ていた。

「宝くじとかで一発当てたら、おとぎの借金も帳消しになるよな。
 江戸にもあったろ、宝くじ」
と夜食のお茶漬けを食べながら渉は言った。

「富くじのことか?
 あれは高いから、みんなでお金を出し合って買うんだ」
とおとぎは言う。

「それ、当たったとき、もめそうだな。
 っていうか、遊女は富くじ買えないのか?

 当たったら、借金が返せるだろうに」

「富くじで借金を返せたものの話は聞いたことがないのう」

 宝くじは銀行が発行しているが、富くじはお寺や神社で売っているのだとおとぎが教えてくれた。

「寺や神社でか。
 なんかありがたい感じがするな」
と渉は言ったが、

「当たらなければ、なにもありがたくないのじゃ」
とおとぎはシビアなことを言う。




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