27 / 28
祈り
おとぎ、SDGsを知る
しおりを挟むその日の夜、古くなった衣類を畳んでいる穂乃果を見て、おとぎが訊いていた。
「なにをしておるのじゃ?」
「服の整理よ。
着られなくなったものを捨てるの」
「捨てるのか。
もったいないのう」
「そういえば、江戸の町では、着物はリサイクルして使いまわしてたんだっけ?
リサイクル……えーと、古着を買ったり、それがくたくたになったら、別のものにしたり」
そうじゃ、とおとぎは言う。
「普通は新品の着物など買えぬから、古着屋で買うようじゃぞ。
着られなくなった着物も大事に仕立て直して着たり、雑巾やおむつにして、最後まで使い切っておった」
そう言いながらも、ちょっとひとごとなのは、やはり、豪華絢爛な吉原にいたからだろうか。
「そういえば、江戸はSDGSの町だと言うな」
と渉が言うと、
「なんじゃ、SDGS とは」
とおとぎが訊き返してくる。
「SDGSっていうのは、みんながこの地球でずっと暮らし続けられる世界を実現するってこと。
物を大事にして、無駄をせず、地球にやさしい生き方をするってことかな」
「地球」
「おとぎ、地球は丸いんだぞ」
「知っておるわ。
姉さんの部屋に地球儀があったからな」
おとぎは腕を組み、渋い顔をする。
「しかし、江戸が環境にやさしい町かと言うと、そうでもないぞ。
結構、ゴミが出て、もてあましていた。
坂のあたりにゴミが積み上げられて、今も地名にも残ってると聞いた気がする――」
おとぎはそこで少し考えるような顔をしたあとで、
「あと、ゴミで海を埋め立てていたな」
と付け足した。
「そういえば、東京はかなり埋立地だと聞いていたが。
江戸にはもう埋め立てられていたのか」
結構みんな、知らずにゴミの上に住んでいるようだ。
「まあ、片付けないと、どんどんモノがたまっていくからねえ」
よいしょと縛った服を穂乃果は抱えていく。
「そういえば、今、物のない暮らしって流行ってるよな」
そう渉が言うと、おとぎは小首をかしげた。
「わざわざある物を捨てるのか?
なにやら、もったいないのう」
「江戸はけっこう豊かだったと聞くが」
「いろいろと楽しいところじゃ。
だが、着物と同じで、物はない。
さらに長屋のものたちは、夏にはどてらを、冬には蚊帳を質に入れ、質屋をタンスがわりにしておるので、より、モノはないそうじゃぞ」
「蚊帳か。
おばあちゃんちで見たことがあるな。
あれ、江戸時代には、もうあったのか」
蚊帳とは、蚊などの虫から寝ている場所を守るため、上から吊るしてある網目の布だ。
よく女の子たちが、お姫様のベッドみたいという、薄いカーテンがベッドの上からたらしてある、あれと似ている。
あんなに可愛らしい感じではないが。
中に入ると、秘密基地みたいで、ちょっと楽しかった思い出がある。
「どてらって、綿の入ったふかふかのハッピみたいなやつだよな」
「そうじゃな。
それを着て寝るのじゃ」
「布団がわりにしてるってことか?」
そうそう、とおとぎは頷く。
「寒い日にはそのまま動けるから便利じゃぞ。
姉さんたちは立派なかけ布団をかけて寝ているが」
そういえば、おとぎは夏用のかけ布団をさらさらした肌触りで軽いと言って喜んでいたな、と思い出す。
その日もおとぎは提灯の下で三味線を弾いてくれた。
近所のおばあちゃんがやってきて、
「一緒に聴かせてもらっていいかの?」
と言ったので、おとぎは嬉しそうに弾いていた。
「なあ、渉」
とおばあちゃんが帰ったあと、おとぎは言った。
「お前はお前の意思で、医者になることを決めた。
私も私の意思で、自分の未来を決めようと思う――」
おとぎの瞳に迷いはなかった。
「……おとぎ。
なにがあっても、ここはお前のもうひとつの家だから。
もし、お前がここを忘れてしまっても。
いつかきっと、思い出して――」
「ありがとう、渉」
おとぎはちょっとだけ自分の胸に額をぶつけ――
次の日、彼女はいなくなった。
21
あなたにおすすめの小説
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
煙草屋さんと小説家
男鹿七海
キャラ文芸
※プラトニックな関係のBL要素を含む日常ものです。
商店街の片隅にある小さな煙草屋を営む霧弥。日々の暮らしは静かで穏やかだが、幼馴染であり売れっ子作家の龍二が店を訪れるたびに、心の奥はざわめく。幼馴染としてでも、客としてでもない――その存在は、言葉にできないほど特別だ。
ある日、龍二の周囲に仕事仲間の女性が現れ、霧弥は初めて嫉妬を自覚する。自分の感情を否定しようとしても、触れた手の温もりや視線の距離が、心を正直にさせる。日常の中で少しずつ近づく二人の距離は、言葉ではなく、ささやかな仕草や沈黙に宿る。
そして夜――霧弥の小さな煙草屋で、龍二は初めて自分の想いを口にし、霧弥は返事として告白する。互いの手の温もりと目の奥の真剣さが、これまで言葉にできなかった気持ちを伝える瞬間。静かな日常の向こうに、確かな愛が芽吹く。
小さな煙草屋に灯る、柔らかく温かな恋の物語。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる