京都に修学旅行に行ったら、異世界に着いていました ~矢頭くんと私の異世界放流記~

菱沼あゆ

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ラスボスが現れました

矢頭、最後のコマンド

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 山の上に向かってお地蔵さんが並んでいた。

 お地蔵さんの前に木の看板があって、墨で一、二、三……と数が振ってあり。

 それをひー、ふー、みー、よ、と数えながら進んでいくと、真っ赤な鳥居が現れたんだった。

「なんかいろいろ変だったけど。
 京都だしな~。
 なにがあってもおかしくないよな、古い町だし、と思ったんだよね」

「おお、あの地蔵か。
 俺も数えたぞ」
と塁が言う。

 俺も俺もとみんなが言い出した。

「あの地蔵数えるのがポイントだったんですかね?
 あそこにたどり着く」

 水門がそう言うと、
「九体いたな~、あの地蔵」
と楓子が呟いた。

「八体だったよ」

「七体だろ」
「六体でしたよ」

「五体じゃね?」

「なんで減ってってんだ?」
と塁が言う。

「飛ぶたび、地蔵が身代わりになって消えてるとか?」 

 そう思慮深げな顔で矢頭が言う。

 この人、総長のときから、こういう目つきだったのかな?

 黒髪詰襟銀縁メガネで落ち着き払ってたから、クラス委員になる前からクラス委員みたいな顔してて。

 全然、元総長だとかわからなかったよな~。

 なにをじっと見ている、という顔で矢頭が睨んでくる。

「まあ、そこのところは、わかんないけど。
 地蔵を見たあと、私は鳥居に出会って、祈ったんだよね」

 水門がそう言うと、

「なんて祈ったんだ?」
と塁が訊いてくる。

「『みんな元気に過ごせますように』」

「なんだそれ」

「世界平和か」

 口々にみんなが水門を罵ったあとで、

「姫、そんなムチャ祈るから、現世で叶えられなくて、異世界に飛ばされたんじゃねえのか」

 そう蜂山が水門に言ってきた。

「いや、なんで姫ですか」

 姫は楓子ですよ、と水門は照れて言ったが、
「いや、総長の女だから、『暴走族の姫』だろ」
と蜂山は言う。

 なんなんですか、それは。

 それに誰が誰の女なんですかっ、と水門は矢頭を見上げたが、矢頭は視線をそらしてしまう。

 まあ、異世界に飛ばされたのは、地蔵関係なく、楓子がそう願ったからかもしれないが。

 などと考えていたとき、ヤンキーたちが笑い合って言っていた。

「なんか忘れられないよな~。
 あの不気味な地蔵たち」

「現実世界で最後に見たの、あの地蔵と鳥居だもんな」

 そこで、あっ、と水門が声を上げた。

「そうだよ。
 帰る方法見つけたっ」

 なんだ? とみんなが水門を見る。

 塁がにやりと笑って言ってきた。

「実は矢頭の隠しているコマンドが『現実世界に帰る』だとか?」

 待てよ、と蜂山が割って入る。

「そんなの総長様が隠す意味ないだろう?」

 総長様……?

 いつの間に、総長様に。

「わかんねえぞ。
 ここにいた方が水門と……」
と言いかけた塁の襟元をつかんで矢頭が脅す。

「『死ね』のコマンドを足してやろうか」

 囁くように塁に言う、よく響く低い声。

 射殺いころしそうな鋭い目つき。

 この凄み方は確かに総長だな、と水門は苦笑いする。

 まあ、委員長の扮装(?)のときでも、充分怖かったのだが。

 だが、塁は、そんな矢頭の脅しにも、まるでこたえることなく、へー、とからかうように矢頭を見て言う。

「じゃあ、お前のあの最後のコマンドなんなんだよ」

 塁のその言葉に矢頭は明らかに慌てていた。

「あっ、あれは、使うことのないコマンドだっ」

 みんながざわつく。

 なんだ、使うことのないコマンドって。

 世界を滅ぼすようなコマンドか。

 さすがは総長様だっ、と言い合っていたが。

 いやいや、あのコマンドって、チート能力『ヤンキー』の延長線上にあるものだと思うんだけど。

 ヤンキーって、世界滅ぼせたっけな? と水門は首をかしげる。

 でも、そういえば、矢頭くんって、チート関係なしに元ヤンだったわけだよね?

 あのチートって、単に元から持ってる能力を引き出すためのものだったのだろうか。

 矢頭くんの場合は、隠れていたヤンキーの力。

 私の場合は……、隠れていた財力だろうかな。

 まあ、私の方は自分の力じゃなくて、親の金なんだが。

 自らがつけたヤンキーの技術と筋力をいかせた矢頭くんの方が偉いかな、と思いながらも、水門は、むんずと矢頭の手をつかんだ。

 びくっとする矢頭の右手を地面に水平に上げさせる。

 ちょっと矢頭の声を真似て言った。

「コマンド」

 コマンド画面が現れた。

「騙されるな、コマンドーッ!」

 矢頭は叫んだが、塁も横から矢頭の手をつかみ、タブレットでやるようにコマンド画面を二本の指を使って広げ、さらにスクロールさせた。

 一番下のコマンドが現れる。

 楓子と矢頭の舎弟、浜田が声に出して読み上げた。

「『女とチャラチャラする』」

「なんだ、そんなもの別にコマンド入れる必要ねえじゃねえか」
といつもチャラチャラしている塁が笑う。

「でも、確かにアニキにゃ使えそうにねえな」

 猿渡と松岡もそう言って笑っていた。

 矢頭は自由になった手で慌てて手を振り、コマンド画面を消していた。


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