ここは猫町3番地の2 ~限りなく怪しい客~

菱沼あゆ

文字の大きさ
2 / 27
限りなく怪しい客

なんでこの店は猫町3番地なんだ?

しおりを挟む

「ところで、なんでこの店は猫町3番地なんだ?」

 男が出ていったあと、扉の向こうにある、ちんまりとした木製の看板が目に入ったので、将生はそう訊いてみた。

 前から気になっていたのだ。

 此処、猫町じゃないし。

 第一、丁目は何処行った?

 そんなことを考えていると、小柴も横から言ってくる。

「そういえば、おじいさんが此処やってるときは、違う名前だったよね」

 ああ、と笑って、琳は言った。

「萩原朔太郎の『猫町』が好きだからです。
 あと、高校のとき、出席番号が3番だったので」

「雨宮の前に、2人も居たのか」

 っていうか、なんで、高校のときの出席番号?
と思っていると、

「いやいや、『あ』だけで、五人くらい居たクラスもありましたよ」
と琳は言ってくる。

「それと、3番地なのは、『猫町3丁目』より、『猫町3番地』の方がしっくり来たからです」

 まあ、3丁目3番地だと長すぎるしな……。

「でも、なんか、みなさんにはあまり名前覚えてもらってなくて」
と琳は苦笑する。

「ああ、あの木がいっぱいある喫茶店、とか。
 前、次郎吉じろきちさんがやってた店ねー、とか呼ばれてるみたいなんですよねー」

 次郎吉というのは、琳の祖父のことのようだった。

「ああ、あの美人の店主の居る店ねーっていうのも聞いたよ」
と小柴が笑う。

 いや……見かけ倒しのとんだ変人の居る店の間違いだろうが、と将生が思っていると、小柴が、
「そろそろ帰らないと、待ってるから」
と壁の時計を見た。

「ああ、奥様ですか?」
とさらっと言った琳に、なんて危険な話題をっと将生は固まる。

 すると、小柴は、
「いや、妻はもう居ませんよ」
と笑って会計し、出て行った。

「ありがとうございますー」
と笑顔で見送る琳は、特に気にしていないのかと思ったが、小柴が出て行ったあと、そちらを見たまま、笑顔で言ってくる。

「……今のは、どういう意味なんですかね?

 妻はもう居ません?

 もう、この世に居ません?

 もう、どっか出かけてて居ません?

 どっか出かけてですよね、きっとーっ」
と叫ぶ琳に、

「お前、ミステリーマニアのくせに、なんで、こういうときだけ、平和な方に話をまとめようとするんだ……」
と将生は言ったが、

「だって、怖いじゃないですかっ。
 宝生ほうじょうさん、訊いてみてくださいよ~っ」
と腕をつかんで訴えてくる。

「お前が訊け」
とつれなく言いながらも、将生は、自分の腕をつかむ琳の白い手を見ながら、

 今日、店に来てよかった……と思っていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ここは猫町3番地の5 ~不穏な習い事~

菱沼あゆ
ミステリー
「雨宮……。  俺は静かに本を読みたいんだっ。  此処は職場かっ?  なんで、来るたび、お前の推理を聞かされるっ?」 監察医と黙ってれば美人な店主の謎解きカフェ。 5話目です。

ここは猫町3番地の4 ~可哀想な犯人~

菱沼あゆ
ミステリー
「雨宮……。  俺は静かに本を読みたいんだっ。  此処は職場かっ?  なんで、来るたび、お前の推理を聞かされるっ?」 監察医と黙ってれば美人な店主の謎解きカフェ。 4話目です。

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

ここは猫町3番地の1 ~雑木林の骨~

菱沼あゆ
ミステリー
「雨宮……。  俺は静かに本を読みたいんだっ。  此処は職場かっ?  なんで、来るたび、お前の推理を聞かされるっ?」  監察医と黙ってれば美人な店主の謎解きカフェ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

処理中です...