ここは猫町3番地の2 ~限りなく怪しい客~

菱沼あゆ

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限りなく怪しい客

俺はお前目当ての客ではない

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 個人的に、か。

 なにかツボな響きだ、と思いながら将生は聞いていた。

 しかし、喜三郎さんの珈琲は美味いが、お前目当ての客はお前が居なかったら、がっかりして帰るだろうが。

 ……まあ、俺は違うけどな。

 俺は帰らないけどな。

 喜三郎さんの珈琲は美味しいし。

 入ってカウンターの中を見た瞬間に帰ったら、常連のおばあさんたちに、にまにま笑われそうだしな……。

 そんなことを考えながら、今聞いた言葉を思い返していた。

『あれは新田さんじゃ、琳。
 もうひとりは、そのまんま、合っとる』

 新田さんか、と思ったとき、琳が後ろを見て、
「いらっしゃいませー」
と言った。

 水を持って行きながら、
「あのー」
と言うのが聞こえてきた。

「新田さんってご存知ですか?」

 誰に訊いてるっ?
と振り向くと、小柴だった。

「新田?」
と小柴は首を傾げている。

 本人に訊くのかっ。
 いや、琳の祖父が言った『新田さん』が、小柴とは限らないが。

 お前、なんのために、隠れて写真撮ってたーっ、と思っていると、小柴が、
「ねえ。
 新田って、僕じゃなくて?」
と言ってきた。

「え、小柴さん、新田さんっておっしゃるんですか?」
と言ったあとで、琳は少し考え、

「……えーと、コシバ ニッタ……下のお名前、なんでしたっけ?」
と訊いていた。

「いや、ミドルネームとかないから」
と苦笑いした小柴は、

「新田は旧姓だよ。
 小柴は、うちの妻の苗字。

 結婚したとき、嫁さんちの苗字に変えさせられたんだけど――」

 だけど?
と将生と琳は身を乗り出す。

 なにか続きがある気がしたからだ。

 変えさせられたんだけど、妻亡き今もそのままだとかっ?
と将生は思ったが、小柴はそこで話を止め、

「ところで、この間撮ってた僕の写真、なにに使ったの?」
と笑って琳に聞き始める。

「あ、バレてました?」

 琳は、あっけらかんと笑って認めていた。
 


「……お前、なんのために隠れて写真撮ってた」

 お盆を手に戻ってきた琳に、将生が言うと、琳は、いやあ、と笑い、

「推理するのが、めんどくさくなっちゃって」
と言う。

 どんなミステリーマニアだ……。

「じゃあ、ついでに全部訊いてきたらどうだ?
 嫁のこととか」

「そっちは訊きにくいじゃないですか、なんとなく」

 もし、小柴の嫁が亡くなっていたら悪いと思っているのだろう。

 まあ、琳のそういう、人のいいところは嫌いじゃないんだが、と思いながら、小柴の注文した珈琲を作り始める琳を眺めていた。


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