14 / 27
限りなく怪しい客
お客様の事情には首を突っ込むまいとは思ってるんですけどね
しおりを挟む龍哉を見送ったあと、カウンターに戻ってきた琳が、コーヒーサイフォンを見つめていると、将生が、
「どうした?」
と訊いてきた。
「いえ、あまりお客様の事情には首を突っ込むまいとは思ってるんですけどね」
「まあ……犯人を犯人でなくしようと思うくらいだからな」
前回の事件のことを言っているのだろう。
「……でも、どうしても、お客様には変に思い入れをしてしまって。
いろいろと見過ごすことができないんです」
そう言うと、将生は何故か、じっとこちらを見つめてきた。
「どうしました?」
と訊いてみたのだが、将生は、いや、と言っただけで語らず、帰ってしまった。
次の日。
なんかいろんなことがちょっとずつ引っかかるなーと思いながら、琳は最近できた、ちょっと変わったもののあるスーパーに行ってみた。
そういえば、この近くだったな、安達さんが言ってたアパートって、と思ったとき、ちょうどその刹那がカゴを手に歩いてきた。
「ああ、店長さん」
と刹那も琳に気づいて声をかけてくる。
「て、店長さんはやめてください……。
その呼ばれ方、慣れていないので。
雨宮でも、琳でもいいです」
お好きにお呼びください、と琳が言うと、刹那はちょっとだけ笑ってみせる。
「じゃあ、雨宮さん。
お買い物ですか?」
「ええ、ちょっと。安達さんも?」
そう返しながら、琳は思う。
これつて、スーパーで、よくある会話だけど。
よく考えたら、妙な会話だよな~。
スーパーなんだから、お買い物に決まってるよね。
っていうか、安達さんって、スーパーでお買い物とかするんだ?
当たり前だけど、意外だな。
安達さん、生活感ないからな~。
いや、違うか、と琳は気づいた。
生活感がないんじゃなくて、生きてる感じがしないんだ……。
そのとき、見るつもりはなかったのだが、刹那のカゴの中が見えてしまった。
チーズに炭酸水に、箱入りのアイス。
やっぱりなんだか生活感がないな、と思いながら、琳は頭を下げ、通り過ぎた。
外に出ると、駐車場にある林の向こうの空が青紫色になっていた。
ずいぶん日が落ちてきたようだ。
そろそろ戻らねば、と琳は思った。
店は今、常連のおばあちゃんたちが見てくれている。
「琳ちゃん、お客さん来たら相手しとくから、今のうちに買い物でも行ってきなよ」
と言われて出て来たのだ。
「でも、あの男前の警察の人は、店に居るのが私たちだけだったら、Uターンして帰っちゃうだろうけどね」
ひひひ、とおばあちゃんたちは笑っていたのだが。
……誰だろうな、男前の警察の人って、と琳は思っていた。
佐久間さんか?
警察と聞いたので、まず、刑事の佐久間を先に思い浮かべてしまったのだ。
佐久間さん、男前かな? と琳は小首を傾げる。
佐久間はどちらかと言えば、ぬいぐるみ的な可愛さのある男だからだ。
そのとき、
「雨宮さん」
と呼びかける声がした。
外の自動販売機の側に刹那が居た。
白いビニール袋の中から、アイスを一本取り出し、琳に向けてくる。
「アイス、ご一緒にいかがですか?」
……この人も唐突な人だな、と思いながらも、
「ありがとうございます」
と言って、ありがたく、いただいた。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる