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限りなく怪しい客
ずっと疑ってたんですよ
しおりを挟む「……宝生さん」
三十分後、一度帰った将生が、もう閉店している琳の店の扉を開けると、琳はそう言って、呼びかけてきたが、驚いた風にはなかった。
「戻ってくると思ってましたよ」
とカウンターの辺りしか灯りのついてない店の中で、琳は言う。
「佐久間さんは?」
と訊いてきた。
「帰った。
なんか、深夜ドラマがあるとかどうとか言って」
そうですか、と琳は苦笑している。
刑事でもない自分が戻ってきたのに、刑事の佐久間がなにも感じず、戻ってこなかったからだろう。
「珈琲でも淹れますよ。
ああ、私のおごりです。
私も飲みたいので」
そう言いながら、琳はサイフォンで珈琲を淹れ始める。
カウンターに座った将生は、サイフォンがこぽこぽ言い始めるのを聞きながら、琳が口を開くのを待っていた。
「私、安達さんは、里中さんを殺さないと思ってました」
サイフォンを見ながら言う琳に、将生は、
「何故だ」
と訊いた。
「お前が、真っ先に安達刹那を疑ったんじゃないか」
「そうですね。
でも、安達さんは小柴さんが止めなくても、最初から、里中さんを絞め殺すつもりはなかったんです。
神原七重さんを悲しませたくはないから」
「里中が神原七重の愛した男だからか?」
いや、違います、と琳は言う。
「ずっと疑ってたんですよ。
そうなんじゃないかなって。
それがあの日。
スーパーで、安達さんに会った日、確信に変わりました。
宝生さん、安達さんは、ビニール袋がたまってくのが嫌だって言ってたって言ってましたよね?」
「それがどうかしたのか?」
「私が出会ったとき、安達さん、スーパーでビニール袋買ってました。
カゴの中身がチラと見えたんですけど。
別に今すぐ急いで買わなきゃいけないようなものでもなかったですね。
まあ、その商品がすぐに必要かどうかは、人によって違うとは思いますけど。
少なくとも、すぐそこにアパートがあるのに、買い物袋を取りに行かずに、慌てて買うほどのものではなかった」
そう言いながら、琳は棚のカップを振り返る。
「どれがいいですか?
お好きなのを」
今日は他の客も居ないし、急いでもいないので、選ばせてくれるようだった。
ブランド物の器もあったが、手作り風の味のある器を選ぶと、琳は笑う。
「お目が高いですね。
これ、葉山さんが作ったやつですよ」
と琳は常連さんの名前を挙げた。
すごく味のある器で、琳も気に入っているようだった。
その器に珈琲を淹れてくれながら、琳は言う。
「あのとき、なんか変だなと思ったんです。
ビニール袋の件に関しては、あとから宝生さんに聞いて、気づいたんですけど。
スーパーから私が外に出たとき、安達さんが、
『アイス食べませんか?』
って言って、ひとつアイスをくれたんです。
アイスバーが、買い物袋から、すぐに、すっと出てきました。
箱入りのアイスだったのに。
安達さん、アイスの箱、開けて待ってたんですよ、私が出てくるのを」
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