ここは猫町3番地の2 ~限りなく怪しい客~

菱沼あゆ

文字の大きさ
27 / 27
限りなく怪しい客

常連さんが増えました

しおりを挟む

 日曜日、今日はカラオケがなくて、暇だから、とか言いながら、琳の祖父、次郎吉が店に来ていた。

 あれが琳のじいさんか、と思いながら、将生はカウンターから、その男を見る。

 よく見れば、顔は琳と似ている気もするが。

 全体的に、外国の絵本に出てくるおじいさんのような、ふんわりとした風貌で、受ける印象は琳とは全然違っていた。

「おー、せっちゃんじゃないかー」

 次郎吉は、窓際の席に居た刹那の肩をパンパンと叩き、
「大きくなったな。
 お前の父さんかと思ったよ。

 そっくりじゃないか」
と言って笑っている。

「……時は流れてるんですよ、おじいちゃん」
と言う琳は側を通りながら、苦笑いしていた。

 刹那が固まっていたからだ。

 どうも刹那は父親が苦手なようだった。

 側に来た琳が口許にやったトレーの陰から、こそっと言ってくる。

「安達さんのお父さん、政治家の安達賢吾らしいです」

「そういうのに反発して、大学生にもなって、似合わないヤンキー風の格好してたのか?」

 さあ? と小首を傾げながら、琳はカウンターに入っていく。

 眩しい庭園にもう二宮金次郎は居ない。

 あのあと、琳が、
「金次郎さんを撤去しようと思います」
と言い出したからだ。

「犯罪を誘発するので」
と言う琳に、

 いや、まずは、毒草から撤去しろ、と思っていたのだが。

 琳は、
「これは金次郎さんによる殺人未遂事件ですよ!」
と主張する。

「金次郎さんを見たら、みんな童心にかえるらしいので。

 安達さんもそうなって、犯罪を思いとどまってくれるかなあ、と思って置いていたんですが。

 まさか、金次郎さんのせいで、計画を実行しようとしていたとは……」

「そうだな。
 まあ、どうでもいいが、また新たな犯罪を呼び込みそうなものが納入されないうちに、今の造園業者とは手を切れ」
と言ってみたのだが、琳は相変わらず、人の話を聞いてはいなかった。
 


 そして、安達刹那だが――。

 刹那は当初の予定通り、「いつか」「忘れた頃に」里中を殺すと言っている。

「いつか殺しますよ。

 でも……

 そのいつかは来ないのかもしれないと、今はちょっと思っています」

 そう言って、笑っていた。

 

「結局、里中は安達刹那を訴えなかったんだな。
 あそこまででも充分犯罪だったが」

 カウンターで将生がそう言うと、琳は笑い、
「だからやっぱり、そう悪い人でもなく、いい人でもないってことなんでしょうね。
 まあ、人間って、みんな、そんなものだと思いますけど」
と言っている。

「そのうち、安達さんにも、素敵な出会いでもあれば、吹っ切れるのかもしれないですね」
と言いながら、琳は珈琲の缶を開けている。

 雨宮以外で。
 雨宮以外でお願いします、神様、と将生が祈ったとき、

「琳さん、アイスコーヒーふたつ」
と言いながら、龍哉がやってきた。

 今日も父親と二人だ。

 龍哉の父親だけのことはあり、なかなかのイケメンである龍哉父が笑って言う。

「また女性陣は買い物ですよ。
 終わりゃしないから、避難してきました」

 すると、刹那の近くの席に群がっていたおばあちゃんたちと話していた次郎吉が、チラと龍哉と龍哉父を見、更に将生の方を見て言った。

「琳、イケメンぞろいで、いい店だのう」

「え? イケメン?

 龍哉くんですか?
 安達さんですか?

 龍哉くんのパパですか?
 小柴さんですか?」

 みんなの目が将生を見る。

 琳がつられて、こちらを見た。

「あー、宝生さん~」
と苦笑いしている。

 カウンターの近くに座っていた小柴が本を手にしてたまま、ぼそりと呟く。

「今のは……もしや、琳さんの心の中のイケメンランキングだったんですかね」

 最後に出てきた小柴はちょっと不満そうだったが。

 いや、俺なんて、そもそも出てきてもないんだが……と将生が思ったとき、次郎吉が、小柴の肩を叩いて言った。

「おお、新田さん。

 いや、小柴さんか、今は。
 元気かね。

 奥さんの名前になったのか。
 奥さんは元気かね」

 ええっ?
 奥さんっ!?

 奥さんはお元気ですかっ?
と思わず、琳と二人で、小柴を見てしまう。

 小柴は笑っていた。
 


 あれから、この『猫町3番地』の常連が増えた。

「聞いてくださいよ、安達さん。
 あれ、絶対、犯罪だと思うんですよー」

「そうですかねー?
 僕ならそういうやり方しませんけどね~」
と話す琳と刹那を見ながら、将生は、違うか、と思う。

 犯罪予備軍が増えた……。

 警察関係者が此処に居るというのに、お構いなしだな、と思う将生の前で、琳がいつものように、淹れるたび味の違う珈琲を淹れている。

 猫町3番地は今日も平和だ。

 と思ったとき、入り口のドアを跳ね開ける音がした。

「雨宮さんっ、宝生さんっ。
 この間、学校の裏山から出てきた人の骨なんですけどーっ」
と叫びながら、佐久間が飛び込んでくる。

 ……今日も平和だ。

  たぶん……きっと……。



                         『限りなく怪しい客』完


しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

たえ
2022.12.11 たえ

終わっちゃいました。進むにつれ、どんどん怪しげな人々が増えて…どうなって行くのか。美しい方々が集う、怪しげなカフェ。次のお話も楽しみにしてます。

2022.12.11 菱沼あゆ

たえさん、
ありがとうございますっ(⌒▽⌒)

今から次のお話書きますね~。
頑張りますm(_ _)m

解除
たえ
2022.12.03 たえ

美しいお庭と、美しい人々が出入りする、ミステリアスなカフェ。素敵。お庭の隅からこっそり覗いてみたいです。

2022.12.04 菱沼あゆ

たえさん、
ありがとうございますっ(⌒▽⌒)

2話目も半分ちょっと来ました。
頑張りますねっ。

解除
johndo
2022.11.19 johndo

もしや、これは「仏眼探偵」の世界観と一緒ですか?
今回の琳の言動もそうですが、将生に晴比古に通じるものを感じます。

2022.11.19 菱沼あゆ

johndoさん、
そうですね~(⌒▽⌒)
ライトなミステリーはどれも似た雰囲気かもしれませんね~。

いつもありがとうございますっm(_ _)m

解除

あなたにおすすめの小説

ここは猫町3番地の5 ~不穏な習い事~

菱沼あゆ
ミステリー
「雨宮……。  俺は静かに本を読みたいんだっ。  此処は職場かっ?  なんで、来るたび、お前の推理を聞かされるっ?」 監察医と黙ってれば美人な店主の謎解きカフェ。 5話目です。

ここは猫町3番地の4 ~可哀想な犯人~

菱沼あゆ
ミステリー
「雨宮……。  俺は静かに本を読みたいんだっ。  此処は職場かっ?  なんで、来るたび、お前の推理を聞かされるっ?」 監察医と黙ってれば美人な店主の謎解きカフェ。 4話目です。

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

ここは猫町3番地の1 ~雑木林の骨~

菱沼あゆ
ミステリー
「雨宮……。  俺は静かに本を読みたいんだっ。  此処は職場かっ?  なんで、来るたび、お前の推理を聞かされるっ?」  監察医と黙ってれば美人な店主の謎解きカフェ。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。