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第一話「壁のシミ、通学路のカゲ」
通学路の影
しおりを挟む誰もいない白い壁の前に、一人、ぼんやりと佇む人影がある。
それは――
誰が忘れた影なのだろう?
今度の学校はちゃんと通えるだろうか?
転校したばかりの潮原なづなは、ひとり登校路を歩きながら、そんなことを考えていた。
車の行き交う国道を歩いていたのだが、ふと足を止める。
騒がしい中、そこだけ静かだ――。
なづなはそこにある白い塀を見つめる。
壁には、ひとつの影があった。
誰もそこに立ってはいないのに。
太陽に照らし出されて生じたなづなの影はアスファルトに向かって伸びていて、そんな位置には来ていない。
ぼんやりとしたその男のものらしき影に向かい、なづなは訊いた。
「たかもりめら?」
影はなにも答えない。
「……違うか」
と呟き、歩き出す。
「体調不良により、転入早々今まで通えていませんでした。
潮原なづなです。
よろしくお願いいたします」
潮原なづなと先生が書いてくれた黒板の前でなづなは頭を下げた。
「潮原。自己PRとかないのか?」
担任は、どっしりと落ち着いた感じの男の先生だった。
池端というらしい。
「自己PRですか……」
となづなは顎に手をやり考えたあとで、
「そうですね。
霊が見えます」
と言った。
教室内がざわつく。
「入学初日から通えなくなっていた前の高校は、戦時中の兵舎跡地でした。
今度は何事も起こらぬよう祈っています」
よろしくお願いいたしますっ、となづなは頭を下げた。
「そ、そうか……大変だったな」
席に着きなさい、とちょっと逃げ腰になりながら、池端は言う。
「そこの窓際から二列目の空いている席だ」
はい、となづなは、そちらに向かおうとしたが、なにかに足が引っかかった。
ので、それを踏み締める。
「いったーっ!」
と誰かが叫んだ。
真横の席のツインテールの女の子が足を押さえて、うめいている。
「あ、すみません。
踏みました?」
「踏みましたじゃないわよっ」
と彼女は顔を上げ、怒鳴ってきたが、なづなの後ろの席の男子生徒が言った。
「新井、お前が足引っ掛けようとして出したんだろ?」
彼はメガネをかけたイケメンだった。
クールメガネという奴か、となづなは思う。
「クラス委員の宮本晴樹だ」
そう彼は名乗った。
「今、君に足を引っ掛けようとした奴は、新井千乃。
このクラスの要注意人物だ。
近づくな」
すごくわかりやすい紹介だな、と思いながら、なづなは二人に頭を下げ、席に着いた。
右隣の新井千乃と目が合う。
「新井さん、よろしくお願いします」
と言うと、斜め後ろの席の新倉里美という子が、笑って言ってきた。
「そいつ呼ぶの、スマ子でいいよ。
いつもスマホいじってて、自分の本体、スマホだと思ってるみたいだから」
聞こえたらしく、スマ子こと千乃は、なんだってっ? と睨んでいたが、彼女と保育園から一緒だという里美は、別に怖くないらしく、笑っていた。
一時間目が終わったあと、なづなは自分の左隣を見た。
空席だ。
誰に訊こうかな、と思いながら、周囲を見回す。
宮本も里美も席を立っていていなかった。
スマ子だけが右隣の席でスマホをいじっている。
「あのー、スマ子さん」
「千乃っ」
顔も上げずにスマ子が言う。
化粧してるみたいな派手な顔立ちだな、と思っていたのだが、ほんとうにしているようだった。
ここは校則厳しいと聞いたのだが……。
「千乃さん、私のお隣って空いてますけど、ここの方、おやすみなんですか?」
すると、スマ子ではなく、近くの席の男子が教えてくれた。
「そこはさあ、呪いの席なんだよ。
その席の近くになったヤツは呪われるんだ」
と彼が言うと、
「俺、一年のとき、呪われたな~」
と別の男子が言う。
……一年のとき呪われた?
この席は学年が上がるたび、一緒に移動してっているのだろうか?
「でも、大丈夫。
君には、その呪いかからないから安心して」
と彼らは笑う。
「おい、お前ら」
と戻ってきた宮本が割って入ろうとしたとき、チャイムが鳴った。
呪いの席かあ。
別に具合い悪くならないけど。
なんでも霊障が起こるわけじゃないしな。
そう思いながら、なづなは燦々と日差しがさし込んでいる左隣の席を眺める。
昼休み。
宮本が校舎を案内してくれると言ってきた。
クラス委員だからだろう。
ついでに、となりの空席のことを訊くと、宮本は、
「その席の生徒は決まった曜日の決まった時刻でないと現れないから」
と言う。
決まった時刻にしか現れない生徒なんて。やっぱり、怪奇現象だろうか、と思いながら、なづなは宮本について行った。
宮本は、ぐるっと校舎内を案内してくれた。
理科室や美術室なんかの位置を教えてくれながら、宮本は言う。
「君は霊が見えるんだっけ?」
「信じるんですか? 私の言ったこと」
「霊ってものがほんとうにいるのか、わからないが。
いるのなら、どのような成分でできているのか知りたい」
……どんな成分なんでしょうね、と思いながら、なづなは言った。
「ちなみに、この学校で一番気になったのは、階段の踊り場のシミです」
「……踊り場の鏡じゃなくて?」
と宮本は訊いてきた。
その鏡には、なにか怪談話でもあるのだろうか? と思いながら、なづなは言った。
「鏡がある踊り場はひとつのようなので、おそらく、場所は同じなんですが。
私が気になるのは、その鏡の側にあるシミの方です」
まだ、時間があるのなら、行ってみます?
そうなづなは宮本に訊いてみた。
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