怪奇迷宮366 ~あやかし探偵と私~

菱沼あゆ

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第一話「壁のシミ、通学路のカゲ」

壁のシミ

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 踊り場には燦々と昼の日が差し込んでいて、およそ怪談話からは縁遠そうだった。

「これですよ」
となづなは鏡の横にあるわずかなシミを指差す。

「そういえば、壁の色が少し黄色く変わっているようだが。
 なにかこれに意味があるのか?」

「光の加減なのかもしれないですけど、私にはうねうねとうごめいているように見えるんですよね」

 宮本は目をしばたたきながら、そのシミを凝視してみている。
 やはり、ただのシミに見えるようだ。

「つまらないモノだな、霊現象なんて」
 宮本はそう吐き捨てるように言った。

「霊が見えない人間にはなんの意味もないじゃないか」

「まあ、霊なんて、関わらないで済むのなら、関わらない方がいいものですからね」
となづなは言う。



 童顔なのに、目が据わってる。
 それが宮本がなづなを初めて見たときの印象だった。

 愛らしい顔立ちなのに、黒い瞳だけが神秘的、というか。
 霊が見えると言われても、そうかも、と思ってしまいそうな目をしていた。

 何処を見ているのかよくわからない。
 まあ、単に目が悪いのかもしれないが。

 そのなづなは、なんてことないシミが蠢くシミに見えるという。

 くだらないな。
 シミはただのシミだ。

 というか、この横にあるのは『百点をとらせてくれる鏡』とかいう怪しげなものなのだが、彼女は、なにも感じないのだろうか?

「あのー」
となづながちょっと間抜けな声で呼びかけてきた。

「宮本さんは『たかもりめら』って知ってますか?」
「……人の名前?」

「さあ、わからないんですが」
 ご存知ないのなら、いいです、となづなは、それぎりその話はしなかった。

 丸顔にさらさらの長い黒髪。
 身長は女子にしては高めだ。

 なにもかもが微妙にアンバランスな感じなのが余計な人目を引くな、となづなを眺めながら、宮本は思う。



「お疲れ~」

 「あれー?
 どうしたの? こんな時間に来るなんて」

 生田李都いくた りとはドカッと自分の机に鞄を投げて言う。

「ロケの帰りにこの近く通ったんだよ。
 僕は疲れてるから帰りたかったのに、マネージャーが行けるときに行っとけって言うからさ」

 あれっ? と李都は右隣の席を見た。

「ここ、誰か来た?」

 この間の席替えのあと、隣の席の男子生徒が転校して、空いていたはずなのに。

「そうそう。
 いきなり転入生が来たんだよ」

 美少女、と前の席の男子生徒が教えてくれる。 

「でも、なんかあの子、変わってるよな」
と別の男子が言った。

「あ、そうだ。
 お前の席、呪いの席だって言っといたから」

「なんの呪いだよ……」

「その席の近くに座るとモテなくなる呪い」
と誰かが笑う。

 生田李都は0歳児からデビューしていた子役だった。
 もうすでに子役という年ではないが、相変わらず小柄で、顔立ちも可愛らしいままだった。

「あ、あの子あの子。
 宮本と今、入ってきた」

 潮原なづなは長身の宮本より少し背の低い、つまり女子にしては高い、スラッとした可愛い子だった。
 芸能界には可愛い子はたくさんいるが、そういうのとちょっと違うというか。

 なづなは、こちらを見て、ギョッとした顔をする。

「昨日……、流されてったのに」
と呟くのが聞こえてきた。

 戸口付近にいた生徒たちが笑っていた。
 李都は声を張り上げて言う。

「濁流に流されてったのは、昨日放送のサバイバルドラマの中の僕!」

 彼女は、あ、聞こえちゃいました? と照れ笑いをする。

 ……可愛い。
 だけど、なんか目が据わってる、と李都は宮本と同じ感想を抱いた。



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