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第一話「壁のシミ、通学路のカゲ」
ゲームの中の人
しおりを挟む晩ご飯はなづなの大好きなチーズハンバーグで、ご機嫌だった。
だが、椅子の後ろを振り向くと、そこにある自分の影に、やはり、違和感がある。
あの影、私の影と入れ替わってしまったんじゃないだろうか?
そして、そのうち、影だけじゃなく。
本体である私までも、この影に乗っ取られてしまうとか?
いや、きっとただの妄想だ――。
そう思おうとしたが、何処にいても影が気になった。
影はどこまでもついて来るから。
夜、電気を消しても、月明かりと街の明かりで影は見えた。
カーテンの隙間から差し込む光。
本来なら、自分のうしろに影ができるはずなのに、影は何故か光が当たっている方向にある。
枕元には今日はスイッチを入れられなかったゲーム。
霊現象に振り回されて、あまり学校に行けなかったなづなは、ゲームの中に出てくる喫茶店に行くことを唯一の癒しとしていた。
ジャズの流れるその喫茶店の片隅には、いつも黒服の男が座っている。
特にしゃべらない上に、荒いドット絵の彼をなづなは、妄想の中で、イケメンの探偵に仕立て上げていた。
次の日も登校は無事にできた。
影に違和感はずっとあったが。
そういえば、体調が少しいいような気がする。
何故だろう? となづなは考える。
なづなの具合の悪さの原因は、霊障だ。
今の学校の方が前の学校より霊障が少ないかと言うと、そうでもない気がするのだが。
学園のあちこちで感じる霊の気配。
みんなが言う呪いの鏡なんかより、強いチカラを校舎の下の方から感じていた――。
「なづなー。早くー」
教室移動。
待って待って、とクラスメイトたちを追いかけながら、なづなはちょっと嬉しかった。
大抵の学生に訪れる、このなにげない日常。
なづなは小脇に教科書を抱え、三階の美術教室に向かい走っていたが、ふと足を止める。
あの呪いの鏡は少し曇っているだけの、ただの鏡に見えるが、横のシミはまだ蠢いていて。
そして、なんだか人の形っぽくなってきている気がした。
そのとき、すっと誰かの手が視界をさえぎった。
自分にかかる背の高い男の影。
振り返ると、宮本が右手を鏡となづなの間に差し込んでいた。
「この鏡、あまり近寄らない方がいいぞ」
……うん、と言いながら、なづなは気になっていた。
「ほら、行こう。
杉崎たちが待ってる」
と宮本は階段の上を見た。
なづなの新しくできた友人たちが、どうしたの? というように足を止め、こちらを見下ろしている。
急いでそちらに行こうとしたが、その瞬間、シミが、しゅるっとなづなに向かってきた。
だが、あっ、と思う間もなく、シミはなづなの影に触れて弾かれ、元の場所に戻った。
立ち止まるなづなの影は、ピクリとも動かない、ごく普通の影に見えた。
だが、なづなには、その中で、なにかが息を殺し、じっと気配を消しているように感じられていた。
「おはよう」
次の日、学校に行くと、スマホをいじりながらスマ子がそう言った。
誰に言ったのかな? と思いながら、席に着くと、彼女はなづなを振り向いて言う。
「なんで返事しないのよっ。
私が独り言言ったみたいになっちゃってるじゃないのっ」
「あっ、すみませんっ。
おはようございますっ」
なづなが莫迦丁寧に頭を下げると、
「……ばっかじゃないの」
ぼそりとスマ子はそう言い、すぐにスマホに視線を戻したが、彼女との距離がちょっと近くなった気がして、なづなは、ふふ、と微笑む。
「どうした、新井。ちゃんと謝ったのか?」
と背後から宮本が言ってきた。
「うるさいわよ。
私の方が被害者じゃない。
変なトラウマ植え付けられて。
もう体育倉庫には入れないわよっ」」
体育倉庫の水を滴らせてくる霊の話がよほど怖かったらしい。
スマ子はチラ、となづなを見て、
「こいつは敵に回しちゃダメなヤツだわ……」
と呟いていた。
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