怪奇迷宮366 ~あやかし探偵と私~

菱沼あゆ

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第一話「壁のシミ、通学路のカゲ」

ゲームの中の人

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 晩ご飯はなづなの大好きなチーズハンバーグで、ご機嫌だった。

 だが、椅子の後ろを振り向くと、そこにある自分の影に、やはり、違和感がある。

 あの影、私の影と入れ替わってしまったんじゃないだろうか?

 そして、そのうち、影だけじゃなく。
 本体である私までも、この影に乗っ取られてしまうとか?

 いや、きっとただの妄想だ――。

 そう思おうとしたが、何処にいても影が気になった。
 影はどこまでもついて来るから。



 夜、電気を消しても、月明かりと街の明かりで影は見えた。

 カーテンの隙間から差し込む光。
 本来なら、自分のうしろに影ができるはずなのに、影は何故か光が当たっている方向にある。

 枕元には今日はスイッチを入れられなかったゲーム。

 霊現象に振り回されて、あまり学校に行けなかったなづなは、ゲームの中に出てくる喫茶店に行くことを唯一の癒しとしていた。

 ジャズの流れるその喫茶店の片隅には、いつも黒服の男が座っている。

 特にしゃべらない上に、荒いドット絵の彼をなづなは、妄想の中で、イケメンの探偵に仕立て上げていた。

 
 
 次の日も登校は無事にできた。
 影に違和感はずっとあったが。

 そういえば、体調が少しいいような気がする。

 何故だろう? となづなは考える。

 なづなの具合の悪さの原因は、霊障だ。

 今の学校の方が前の学校より霊障が少ないかと言うと、そうでもない気がするのだが。

 学園のあちこちで感じる霊の気配。
 みんなが言う呪いの鏡なんかより、強いチカラを校舎の下の方から感じていた――。

 

 
「なづなー。早くー」

 教室移動。
 待って待って、とクラスメイトたちを追いかけながら、なづなはちょっと嬉しかった。
 大抵の学生に訪れる、このなにげない日常。

 なづなは小脇に教科書を抱え、三階の美術教室に向かい走っていたが、ふと足を止める。

 あの呪いの鏡は少し曇っているだけの、ただの鏡に見えるが、横のシミはまだ蠢いていて。
 そして、なんだか人の形っぽくなってきている気がした。

 そのとき、すっと誰かの手が視界をさえぎった。

 自分にかかる背の高い男の影。
 振り返ると、宮本が右手を鏡となづなの間に差し込んでいた。

「この鏡、あまり近寄らない方がいいぞ」
 ……うん、と言いながら、なづなは気になっていた。

「ほら、行こう。
 杉崎たちが待ってる」
と宮本は階段の上を見た。

 なづなの新しくできた友人たちが、どうしたの? というように足を止め、こちらを見下ろしている。

 急いでそちらに行こうとしたが、その瞬間、シミが、しゅるっとなづなに向かってきた。

 だが、あっ、と思う間もなく、シミはなづなの影に触れて弾かれ、元の場所に戻った。

 立ち止まるなづなの影は、ピクリとも動かない、ごく普通の影に見えた。

 だが、なづなには、その中で、なにかが息を殺し、じっと気配を消しているように感じられていた。


 
 「おはよう」
 次の日、学校に行くと、スマホをいじりながらスマ子がそう言った。

 誰に言ったのかな? と思いながら、席に着くと、彼女はなづなを振り向いて言う。

「なんで返事しないのよっ。
 私が独り言言ったみたいになっちゃってるじゃないのっ」

「あっ、すみませんっ。
 おはようございますっ」

 なづなが莫迦丁寧に頭を下げると、

「……ばっかじゃないの」
 ぼそりとスマ子はそう言い、すぐにスマホに視線を戻したが、彼女との距離がちょっと近くなった気がして、なづなは、ふふ、と微笑む。

「どうした、新井。ちゃんと謝ったのか?」
と背後から宮本が言ってきた。

「うるさいわよ。
 私の方が被害者じゃない。
 変なトラウマ植え付けられて。

 もう体育倉庫には入れないわよっ」」

 体育倉庫の水を滴らせてくる霊の話がよほど怖かったらしい。

 スマ子はチラ、となづなを見て、
「こいつは敵に回しちゃダメなヤツだわ……」
と呟いていた。
 

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