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第二話「百点のとれる鏡」
鏡の噂
しおりを挟む「工事現場にピンクのうさぎとか並んでるじゃん。
あれ、夜中に光るらしいよ」
朝、なづなが教室に入ると、李都のそんな声が聞こえてきた。
最近はスケジュールにちょっと余裕があるようで、わりと学校に来ているようだった。
「え? 工事現場にうさぎが並んでるの?
怖くね?」
と李都の前の男子が言っている。
……それは、工事現場のバリケードのあれでは、
と思いながら、なづなも工事現場に、もふもふしながら並ぶうさぎを想像した。
――愛らしいっ!
「おはよう、なづなちゃん」
と李都が笑顔で挨拶してきた。
「はよー」
とスマホを見ながらだが、スマ子も怠惰な挨拶をしてくれる。
「おはようございますっ」
となづなは席に着いた。
零は静かになづなの影の中に潜んでいるようだった。
だが、零が気を抜くと、なづなの影のはずなのに、男の人の影になってしまう。
ちょっとハラハラするな、と思いながら迎えた授業中、いきなり数学の小テストが返され、左右の席から叫び声が上がった。
「うおおおおおっ」
「赤点―っ」
「わめくな、新井っ、生田。
あとから職員室に来いっ!」
ちなみに、うおおおおっの方がスマ子だ。
「ちょっと、あんた、何点っ?」
とスマ子がなづなのテストを覗く。
「九十三! ジーザスッ!
なんなのっ、あんたっ。霊障で、ほとんど学校行ってないって言わなかったっ!?」
「どうして、学校でしか勉強しないと思うんだよ」
と後ろで宮本が呟いている。
「うるさいぞ、新井―っ」
とスマ子はまた怒られていた。
「やばいやばい。
次、赤点だったら、スマホ取り上げられる」
「やばいやばい。
次、赤点だったら、仕事やめさせられるっ」
授業が終わったあと、スマ子と李都は二人で、やばいやばいと呪文のように唱えていた。
「李都くん、賢いんじゃなかったの?
っていうか、家庭教師の派遣会社のCMでは、すごく賢そうなのに」
となづなが言うと、
「……だから、僕とテレビの中の僕をごちゃまぜにしないで」
と李都は言う。
「数学だけは駄目なんだよ。
他の教科でカバーしてここ受かったの。
っていうか、そうだよ。
赤点なことが知れ渡ったら、CMの契約、切られちゃうかもっ」
「やかましいな。
ごちゃごちゃ言ってないで、勉強しろよ、二人とも」
宮本が後ろから眉をひそめて言ってくる。
スマ子がそんな宮本となづなを睨んで言った。
「百点様と九十三点様めっ。
なんなの、あんたたちは。テストの化身なのっ?」
……なんだろうな、テストの化身って。
「勉強教えなさいよっ」
とスマ子が宮本くんにつめ寄る。
「そんな徒労に終わりそうなことは俺はしない」
「やってみないきゃわかんないでしょっ」
とスマ子が両の腰に手をやり、仁王立ちになる。
一見、やる気満々に見えるな……と思いながら、なづなは眺めていた。
「嫌だ。
『二人とも、ダメだったが、頑張ったじゃないか』とか、心にもないこと言うのも面倒臭い」
「なんでもうダメなことになってんのよっ」
「そうだよっ。
二人ともってなんだよっ。なんで、ぼくまでっ?」
と李都は文句を言っていたが、ふと、なにか思い出したような顔をした。
「そういえばさ、今すぐテストでいい点とる方法あるんだよ」
なんか悪い顔してますよ。
この間のサバイバルドラマで見せたみたいな……。
「カンニングはよせよ」
と言う宮本に、
「そんな効率の悪いことはしないよ。
二階の踊り場に鏡、あるじゃん」
と李都は言う。
あの呪いのシミがいた鏡のことか。
なづなと宮本はなんとなく目を合わせた。
「あの鏡、『百点のとれる鏡』なんだよ」
えっ? となづなは思わず、声を上げていた。
「そんな平和なものだったの? あれ」
「拝むと百点とらせてくれるありがたい鏡だよ。
問題を見せると、答えが映るらしいんだ。
特に数学っ」
ちょうどいいよっ。ぼくの苦手科目だよっ、と李都は叫ぶ。
「でもさ、それにはテストの問題が必要じゃない?」
とスマ子が言った。
「そうなんだよねえ。
テスト用紙を盗むのはやりすぎだし、失敗したら、僕の評判に関わるからね」
「じゃあ、どうすんのよ?」
とスマ子に言われた李都は、そこでいきなり、こちらを振り向いた。
「というわけで、二人にテスト問題を予想してもらいたいんだけど」
「えっ?」
「授業聞いてる二人なら、小テストの問題くらい、ある程度予想つくんじゃないの?」
「こっちを見るな」
しっし、と最初は手で払った宮本だったが、
「だがまあ、鏡がほんとうに正解を出すのか興味あるから、やってみてやってもいい」
と言い出した。
「あっ、じゃあ、今から行く?」
とスマ子はノリノリだったが、李都が、
「月夜の晩じゃないと駄目って噂があるよ」
と言う。
なづなの耳には、
「そんなことしてる間に、普通に勉強したらいいんじゃないか?」
という零の声が足元から聞こえてきていたのだが。
結局、みんなで待ち合わせ、夜の校舎に忍び込むことになった。
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