怪奇迷宮366 ~あやかし探偵と私~

菱沼あゆ

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第二話「百点のとれる鏡」

鏡の噂

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「工事現場にピンクのうさぎとか並んでるじゃん。
 あれ、夜中に光るらしいよ」

 朝、なづなが教室に入ると、李都のそんな声が聞こえてきた。

 最近はスケジュールにちょっと余裕があるようで、わりと学校に来ているようだった。

「え? 工事現場にうさぎが並んでるの?
 怖くね?」
と李都の前の男子が言っている。

 ……それは、工事現場のバリケードのあれでは、
と思いながら、なづなも工事現場に、もふもふしながら並ぶうさぎを想像した。

 ――愛らしいっ!

「おはよう、なづなちゃん」
と李都が笑顔で挨拶してきた。

「はよー」
とスマホを見ながらだが、スマ子も怠惰な挨拶をしてくれる。

「おはようございますっ」
となづなは席に着いた。

 零は静かになづなの影の中に潜んでいるようだった。

 だが、零が気を抜くと、なづなの影のはずなのに、男の人の影になってしまう。

 ちょっとハラハラするな、と思いながら迎えた授業中、いきなり数学の小テストが返され、左右の席から叫び声が上がった。

「うおおおおおっ」
「赤点―っ」

「わめくな、新井っ、生田。
 あとから職員室に来いっ!」

 ちなみに、うおおおおっの方がスマ子だ。

「ちょっと、あんた、何点っ?」
とスマ子がなづなのテストを覗く。

「九十三! ジーザスッ!
 なんなのっ、あんたっ。霊障で、ほとんど学校行ってないって言わなかったっ!?」

「どうして、学校でしか勉強しないと思うんだよ」
と後ろで宮本が呟いている。

「うるさいぞ、新井―っ」
とスマ子はまた怒られていた。
 

 
「やばいやばい。
 次、赤点だったら、スマホ取り上げられる」

「やばいやばい。
 次、赤点だったら、仕事やめさせられるっ」

 授業が終わったあと、スマ子と李都は二人で、やばいやばいと呪文のように唱えていた。

「李都くん、賢いんじゃなかったの?
 っていうか、家庭教師の派遣会社のCMでは、すごく賢そうなのに」
となづなが言うと、

「……だから、僕とテレビの中の僕をごちゃまぜにしないで」
と李都は言う。

「数学だけは駄目なんだよ。
 他の教科でカバーしてここ受かったの。

 っていうか、そうだよ。
 赤点なことが知れ渡ったら、CMの契約、切られちゃうかもっ」

「やかましいな。
 ごちゃごちゃ言ってないで、勉強しろよ、二人とも」

 宮本が後ろから眉をひそめて言ってくる。

 スマ子がそんな宮本となづなを睨んで言った。

「百点様と九十三点様めっ。
 なんなの、あんたたちは。テストの化身なのっ?」

 ……なんだろうな、テストの化身って。

「勉強教えなさいよっ」
とスマ子が宮本くんにつめ寄る。

「そんな徒労に終わりそうなことは俺はしない」

「やってみないきゃわかんないでしょっ」
とスマ子が両の腰に手をやり、仁王立ちになる。

 一見、やる気満々に見えるな……と思いながら、なづなは眺めていた。

「嫌だ。
 『二人とも、ダメだったが、頑張ったじゃないか』とか、心にもないこと言うのも面倒臭い」

「なんでもうダメなことになってんのよっ」

「そうだよっ。
 二人ともってなんだよっ。なんで、ぼくまでっ?」
と李都は文句を言っていたが、ふと、なにか思い出したような顔をした。

「そういえばさ、今すぐテストでいい点とる方法あるんだよ」

 なんか悪い顔してますよ。
 この間のサバイバルドラマで見せたみたいな……。

「カンニングはよせよ」
と言う宮本に、

「そんな効率の悪いことはしないよ。
 二階の踊り場に鏡、あるじゃん」
と李都は言う。

 あの呪いのシミがいた鏡のことか。
 なづなと宮本はなんとなく目を合わせた。

「あの鏡、『百点のとれる鏡』なんだよ」

 えっ? となづなは思わず、声を上げていた。

「そんな平和なものだったの? あれ」

「拝むと百点とらせてくれるありがたい鏡だよ。
 問題を見せると、答えが映るらしいんだ。

 特に数学っ」

 ちょうどいいよっ。ぼくの苦手科目だよっ、と李都は叫ぶ。

「でもさ、それにはテストの問題が必要じゃない?」
とスマ子が言った。

「そうなんだよねえ。
 テスト用紙を盗むのはやりすぎだし、失敗したら、僕の評判に関わるからね」

「じゃあ、どうすんのよ?」
とスマ子に言われた李都は、そこでいきなり、こちらを振り向いた。

「というわけで、二人にテスト問題を予想してもらいたいんだけど」
「えっ?」

「授業聞いてる二人なら、小テストの問題くらい、ある程度予想つくんじゃないの?」

「こっちを見るな」

 しっし、と最初は手で払った宮本だったが、
「だがまあ、鏡がほんとうに正解を出すのか興味あるから、やってみてやってもいい」
と言い出した。

「あっ、じゃあ、今から行く?」
とスマ子はノリノリだったが、李都が、

「月夜の晩じゃないと駄目って噂があるよ」
と言う。

 なづなの耳には、
「そんなことしてる間に、普通に勉強したらいいんじゃないか?」
という零の声が足元から聞こえてきていたのだが。

 結局、みんなで待ち合わせ、夜の校舎に忍び込むことになった。
 
 

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