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第二章 姿なき中宮
葛粉が届きました
しおりを挟む数日後、帝が威信をかけて集めてきた葛粉が届いた。
いや、威信をかける程のものではなかっただろうが。
この時代の葛粉は茶色かった。
ちゃんと精製していないからだ。
このままお湯で溶いて葛根湯みたいな感じで薬として飲んでいたのだ。
……このままでは黒っぽいプリンになってしまうし、美味しくなさそうだ。
鷹子は葛粉を精製することにした。
器に水と葛粉を入れて混ぜ、汚れた水や浮き上がってきたカスを捨てる。
それを何度も繰り返した。
「意外に気が長いですね、女御様。
歌を詠まれるのも、琴もそのくらい熱心に取り組まれたよろしいのに」
と命婦はチクチク嫌味を言ってきたが。
プリンが楽しみなのか、手伝ってくれた。
ともかく、時代にそぐわないものを作っているので、ひっそりやりたい。
プリンを作っていることを知っているのは、命婦と一部の女房たち。
あとは帝と是頼と晴明と青龍だ。
……もう充分広まってる気がしてきた、と思いながら、女房たちと何度も水を換え、できるだけ目の細かい籠に蚊帳にも使う麻を敷いて濾し、乾燥させる。
「うーん。
まだ茶色いところがあるわね」
鷹子は上下に溜まって固まった茶色っぽい不純物やアクなどを削り取る。
苦労の甲斐あって、ついに、かなり白い葛粉が完成した。
固まった葛粉が日差しに当たり、白く光っている。
まるでシルクのようだ、と鷹子は思った。
「やりましたね、女御様っ」
「ありがとう、みんな。
ちょっとずつ食べましょうね」
ほんとうに一口ずつになりそうな気もしていたが。
ちょっとしか食べないから美味しいのかもしれないと鷹子は思う。
さて、問題は此処からだ。
牛乳、葛粉、砂糖なんかを煮て、白すぎるがプリンっぽいものを作ろうと思うのだか。
それを冷やし固めねばならない。
冬なら簡単だったんだけどな、と鷹子は思う。
雪にでも埋めておけばいいからだ。
此処から氷室は遠いしな~。
いや、待てよ。
近場にあったな、それっぽいところが、と鷹子は気がついた。
帝がくれる氷とともに、あそこに入れておいてもらえばいいのでは……。
ただ、できるだけ人目につかないように、誰かに運んでもらって冷やしてもらって、持って帰ってもらわねばならないのだが。
誰かって……
まあ、晴明しか居ないのだが。
鷹子は陰陽寮にあるという怪しく涼しい洞穴を狙っていた。
例え、その怪しい冷たさが物の怪に寄るものだったとしても、今はプリンっぽいものを冷やしたいっ、と鷹子は切望していた。
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